先日、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で北野幸伯さんが書かれた「日本の核武装、アメリカは本当に許すつもりなのか?」という記事をご紹介しましたが、この意見について著者のもとに賛否両論、非常に多くのメッセージが届いたそうです。今回北野さんはその中から「核武装賛成メール」を取り上げ、「もし日本が核武装するとなったら世界はどう動くのか」について真摯に回答しています。
日本が核武装しても「ほとんど問題は起こらない論」について
前号で日本の核武装について触れました。まだの方は、是非ご一読ください。
結論だけ書くと、
- アメリカは、日本の核武装を許さないだろう
- 中国、ロシアも、もちろん許さない
- 欧州も、おそらく許さない
- 日本が核武装するためには、190か国が参加するNPTから脱退する必要がある。
- 日本がNPTから脱退し核武装に突き進めば、「満州国」の時と同じように、世界的に孤立して破滅するだろう。
- 戦前・戦中と同じように、アメリカは日本への石油輸出をとめることもできるし、過酷な経済制裁、金融制裁も課すこともできる。
とまあ、こんな話でした。
この件、「賛成」「反対」、本当に多くのメールをいただきました。日本の未来や安保について真剣に考えている読者さんが多く、とても嬉しく思いました。
今日は、「Tさま」からいただいた「核武装賛成メール」に回答させていただきます。Tさまは、「核武装しても大して問題は起こらない」という意見です。
日本の核武装に「反対しない国」は「多い」?
戦前の独立国はほとんどが白人国家でした。そのため日本は孤立していましたがいまは非白人国家のほうが多くなっています。
核武装により日本が世界から孤立するでしょうか。
(Tさまのメールから)
Tさまの意見では、
- 戦前は、白人国家ばかりだったので日本は孤立した
- 今は、非白人国家が多く、「核武装」しても日本は「孤立しない」
これ、どうなのでしょうか?
まず世界の構造からお話しましょう。世界の問題を決める最大の機関といえば、「国連」ですね。国連の中でも特に重要なのは、2つです。
- 国連総会
- 国連安保理
国連総会は、全加盟国が参加できます。ここでいろいろな問題が協議され、多数決で決議が採択されたり、採択されなかったりします。非常に重要なのですが、
- 総会の決定には、「法的拘束力」がありません
はっきりいえば、ある国が総会の決定に従う義務はないのです。
では、「国連安保理」はどうなのでしょうか? 安保理は、「常任理事国」5か国と、「非常任理事国」10か国から構成されます。ここ、とても重要なポイントです。
- 安保理の決定には、「法的拘束力」「強制力」があります
つまり、安保理の決定には、すべての加盟国が従う「義務」があるのです。
別の重要なポイントを見てみましょう。常任理事国5か国、すなわち、
- アメリカ
- イギリス
- フランス
- ロシア
- 中国
には、「拒否権」があります。つまり、自国に都合の悪い決定は、「拒否」することができるのです。
以上まとめると、
- 全加盟国が参加する国連総会の決定には、「強制力」が「ない」
- 国連安保理の決定には、「強制力」が「ある」
- 安保理常任理事国・米英仏ロ中には、「拒否権」がある
こういう国連の構造をみれば、
- 国連総会は重要な決定を下せない
- 安保理でも非常任理事国は、影響力がそれほどない
- 結局、国連を支配しているのは、安保理で拒否権を持つ「米英仏ロ中」である
という「事実」が見えてきます。これはどういうことでしょうか?
「非白人国家が多いので、日本は核武装しても孤立しない」というのは、「感情的なレベル」である。「法的なレベル」では、「国連安保理常任理事国以外の国々には、何の決定権もない」のです。つまり、「非白人国で影響力をもつのは、常任理事国・中国だけ」ということになります。ご存知のように、中国は世界一の反日国家ですから、もちろん日本の核武装を許さないでしょう。
もう1つ、「非白人国家が日本の核武装に賛成するか?」といえば、「そんなことはないだろう」と思います。なぜでしょうか?
全世界の実に190か国が、「核拡散防止条約」(NPT)に参加しています。つまり190か国が、「これ以上核兵器保有国を増やさないこと」を支持している。自らが調印し参加したNPTを破って、「公的に日本の核武装を支持する」。そんな国が存在するとは思えません。
日本は、イランと比較的良好な関係ですが、イランの核兵器保有を支持しますか? もちろん支持しません。自分がやらないことを、他国に期待するのは、無理があります。