今回の「3分間書評」で取り上げるのは、京都在住のイギリス人で元ゴールドマン・サックスアナリストによる1冊。観光立国を目指す日本がすべきこと、足りない部分などをわかりやすく説いています。さらに、「おもてなし」などは瑣末なこと、なんていう耳の痛いご指摘も……。
『新・観光立国論』 デービッド・アトキンソン・著 東洋経済新報社
こんにちは、土井英司です。
いろんなところでコメントしていますが、21世紀最大の産業は「観光産業」です。
世界中で富裕層が生まれ、お金の使いみちを探している。
加えて、昨今の円安。今、観光に力を入れるのは、日本の方向性としても、面白いと思っています。
そこでご紹介したいのが、京都在住の、元ゴールドマン・サックスアナリスト、デービッド・アトキンソンさんによる『新・観光立国論』。
なぜ、生産性の向上や女性の活用ではダメなのか、なぜ観光産業なのか、これまで指摘されていなかった視点から、21世紀日本の「所得倍増計画」が示されています。
冒頭で、世界中の国が指標としているGDPがいかに人口の影響を受けやすいかを説明し、「短期移民」(=つまり観光客)を増やすことを提言。
その後は、日本が観光大国になるために、何をすべきか、足りない部分の指摘と、強化すべきポイントを示しています。
著者によると、観光立国の条件は、「気候」「自然」「文化」「食事」の4つ。
日本人が絶賛する「おもてなし」などは瑣末なことで、高い航空運賃を払ってまで期待することではないと説いています(確かに、東京人が3万円の交通費をケチってUSJに行かないことを考えると、その通りだと思います)。
さまざまなデータが登場し、日本人が観光ビジネスで大事だと考えていることがじつはズレていることが明らかになりますが、指摘はいちいち納得できるものばかりです。
具体的なポイントを見て行きましょう。
日本は動物と植物に非常に恵まれています。あまり知られていませんが、国連の数字によると、日本は1平方キロメートルあたりの動物、植物の数で言えば、実は世界一を誇っているのです
見たいものや体験したいものがあれば、多少治安が悪くても、交通アクセスが悪くても、外国人観光客はやってくるもの
日本人が考えるほど、各国は日本のサービス品質の優位性を必ずしも認めているわけではない
日本にきた外国人観光客のFacebookを見ていると、多くの人が、日本のレストランやホテルで「How is/was everything?」と聞かれないことを指摘しています
日本のレストランのスタッフには、どの客が何を注文したのか覚えていない人が多い
日本が観光立国を目指すなら、ゴールデンウィークを廃止したほうがいい
外国人が日本にやってきて驚くのは「できません」「それは無理です」「ここではやっておりません」と、やたらと「否定」の回答が多いことです
日本人は「外国人」というものをひとくくりにする傾向が強い
さまざまな調査で、訪れる国が遠くなればなるほど、長く滞在する傾向が確認されています
私がより多くのオーストラリア人や欧米人にきてもらえるようにすべきだと主張する理由は、長期滞在者が増えることによって、観光収入も増えるからにほかならない
滞在期間と観光客の支出には、強い相関関係がある
アメリカ政府のデータによると、観光客の支出の26.9%が宿泊で、18.4%が食事
なぜ成田国際空港から新幹線を走らせないのか、不思議
世界では高級ホテルというのは、1泊400万~900万円という価格帯
翻訳は必ず教養のあるネイティブのチェックを
全体的に非常に耳の痛い指摘がなされていますが、もし、これらのポイントがクリアできて、著者のシナリオ通りになるとしたら、訪日外国人観光客の数は、2020年までに5600万人。
2030年までに8200万人で、GDP成長率は8%です。
これは、一読する価値があるのではないでしょうか。
既に関わっている人はもちろん、これから観光ビジネスに挑む人、投資家にも、ぜひおすすめしたい1冊です。
『毎日3分読書革命!土井英司のビジネスブックマラソン』
著者はAmazon.co.jp立ち上げに参画した元バイヤー。現在でも、多数のメディアで連載を抱える土井英司が、旬のビジネス書の儲かる「読みどころ」をピンポイント紹介する無料メルマガ。毎日発行。
<<登録はこちら>>