2015年4月から16年3月の年間運用成績は、まさにその変更の成否を判断する初のデータとなる。それだけに、もし5兆円損失という具体的な数字が明らかになれば、参議院選にのぞむ安倍政権にとって、大きな痛手となるにちがいない。官邸は一計を案じた。
例年なら、GPIFの年間運用実績は7月初旬に公表される。それでは参院選の投票より前になってしまうので、まずい。どうしても公表のスケジュールを参院選後に設定させる必要がある。官邸は塩崎厚生労働大臣を通じて、運用実績発表を参院選後に先送りするようGPIF理事長に指示した。
公表日は7月29日と決まった。「例年、7月末までにすればいいことになっている」とGPIFの事務担当者は言い訳をするが、過去8年間、ずっと7月前半に発表されてきている。その慣例を今回に限って破ったのにはそれなりの理由があるはずだ。GPIFの三石博之審議役は「今回はGPIF設立10年の振り返りをするため例年より作業時間がかかる」と言うが、半月も公表が遅れる理由としては、全く説明になっていない。要するに、安倍政権が公表を遅らせるよう命令してきているだけのことである。
選挙に都合の悪いことは、何もかも後回しというのが、安部政権の一貫した姿勢だ。選挙の判断を間違えないよう国民に真実を知らせるなどという誠意はハナから欠如している。
この問題について、民進党の玉木雄一郎議員が4月7日の衆院TPP特別委員会で「試算では運用見直をしてなければプラスマイナスゼロだった可能性が高い。(公表を遅らせると)消えた年金とか、巨額損失隠しといわれますよ」と安倍首相を追及した。
が、安倍首相は「安倍政権の3年間の運用収益は37.8兆円だ。民主党政権の3年間より遥かに、遥かに、遥かに運用益はあがっている」とうそぶくばかり。ポートフォリオの変更の是非を問題にしているのに、変更前の稼ぎだけを自慢するのである。それなら、変更しないほうがよかったということではないか。
それにしても、国民から預かった年金の積立金の運用方法を政治的な思惑で簡単に変更してもよいものだろうか。しかも、投機性の高い株式投資の比率を2倍に引き上げ、50%にした。それだけ、国民のリスクは勝手に高められてしまったのである。
安倍首相はGPIFの改革と称して、この組織をいじりまわした。2014年1月のダボス会議で「1兆2,000億ドルの運用資産を持つGPIFの改革」をアピールし、日本株への関心をひきつけるや、帰国後さっそくGPIF運用委員の人事に手をつけた。