全世界を震撼させている「パナマ文書」。各国の首脳・有力政治家のみならず日本でもセコム創業者らの名前も上がっているといいます。たしかにタックスヘイブンの利用は今のところ違法ではありませんが、国民や消費者から「収奪」したカネを脱税もしくは避税することは、モラル的に大問題と言えるのではないでしょうか。メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』では今回の事態を受け、「グローバル資本主義は中枢部から腐り始めている」と厳しく糾弾しています。
「パナマ文書」で噴き出したグローバル資本主義の死臭
パナマの法律事務所──と言えば聞こえがいいが、実質はタックスヘイヴンを利用した「資金洗浄(マネー・ロンダリング)」幇助専門のコンサルタント会社──「モサック・フォンセカ」から流出した膨大な内部文書の衝撃が広がっている。米誌「タイム」の4月4日付電子版は、これが「資本主義の大危機に繋がるかもしれない」という見出しの論説を掲げたが、それを大げさすぎると笑うことは出来ない。
もちろん、世界中の大富豪や大企業・大銀行だけでなく麻薬密輸団やテロリストなどの国際犯罪組織などまでがタックスヘイヴンを使って資金を洗浄して脱税したり秘密送金したりして来たのは、今に始まったことではなく、いわゆる「地下経済」の問題の一部としてさんざんに議論されてきた。しかし、今回の一件が特別に深刻なのは……。
2.6テラバイトの膨大な文書
第1に、漏出した資料の膨大さである。匿名の告発者から南ドイツ新聞に届けられた文書は、全部で1,150万件、電子データにして2.6テラバイトにのぼる。1977年から2015年末までの40年近くにわたり、モサックの本社及び全世界に35以上もある事務所と20万人/社に及ぶ顧客との間で交わされた480万通の電子メール、100件の画像、210件のPDF文書が含まれていた。2010年にスノーデンが米外交文書などを持ち出してウィキリークスで暴露した時に世界はその膨大さに驚いたのだったが、その量は1.7ギガバイトで、今回の文書はその1,500倍ほどもある。
とても1社では手に負えないと判断した南ドイツ新聞はこれを、ワシントンに本拠を置く「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」に持ち込み、そのコーディネートによって約80カ国の100以上のメディア(日本では朝日新聞と共同通信)から約400人の記者が出て、1年間かけて解析し取材した。ということは、これまでに報じられているのはまだ概略程度にすぎず、今後恐らく1年間かそれ以上にわたってさらなる新事実やディテール、他の国際的腐敗事件との関連(例えばスイスと米国の検察当局が捜査中のFIFAの底なし汚職事件でもモサックを通じての資金操作疑惑が浮上して、すでにウルグアイ出身の幹部が辞任した!)などが次から次へと暴かれていくことになろう。
第2に、モサックの顧客たちの顔ぶれの豪華さ、とりわけ各国の大統領・首相・閣僚・政府高官など政治指導者とその家族・親戚・仲間たちの多彩さである。ICIJのウェブサイトではその主だったところを「パワー・プレイヤーズ」というタイトルで似顔絵入りで一覧に供していて「汚職と脱税のための世界首脳サミット」でも開けそうな雰囲気である。……と思っていたら、9日付朝日川柳に一句あり、「サミットはバージン諸島でどうでしょう」と。
似顔絵をクリックすると、それぞれの説明が出て来るので、詳しくは直接参照して頂きたいが、名前と肩書きだけ列挙すると(左上から)
● Panama Papers The Power Players
パナマ文書の報道は日本では少なく、情報不足のようだが、世界の140人の政治家の汚職・脱税疑惑を暴露した「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)の要約サイト:https://t.co/ECgaNX09X3 pic.twitter.com/FAJNtVYzgv
— Masa Okumura (@mokumura) 2016年4月6日
マクリ=アルゼンチン大統領、イヴァニシヴィリ=元ジョージア首相、グンロイグソン=アイスランド首相(すでに辞任)、アラウィ=元イラク副大統領、アリ・アブ・アル・ラゲブ=ヨルダン元首相、ハマド・ビン・ジャーシム・ビン・ジャブル・アル・サーニー=元カタール首相、ハマド・ビン・ハリーファ・アル・サーニー=元カタール首長、サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ=サウジアラビア国王、アフマド・アル・ミルガニ=元スーダン大統領、ハリーファ・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン=アラブ首長国連邦大統領、ラザレンコ=元ウクライナ首相(米国で服役後、財産差し押さえ)、ポロシェンコ=ウクライナ大統領。
アリエフ=アゼルバイジャン大統領の妻・子・妹、習近平=中国国家主席の義兄、李鵬=元中国首相の娘、プーチン=露大統領の仲間、アサド=シリア大統領のいとこ、キャメロン=英首相の亡父、ムバラク=元エジプト大統領の子、モハメッド4世=元モロッコ国王の秘書、シャリフ=パキスタン首相の子たち、クフオル=元ガーナ大統領の長男、ラザク=マレーシア首相の子、キルヒナー=元アルゼンチン大統領の秘書、ニエト=元メキシコ大統領のお仲間ビジネスマン、カルロス1世=元スペイン国王の姉、バグボ=元コートジボアール大統領のお仲間の銀行家、ズマ=南アフリカ大統領の甥、コンテ=元ギニア共和国大統領の未亡人……。
こうやって書き写しているだけで気分が悪くなってくるようなリストである。
この似顔絵リストには出てこないが、英紙ガーディアンの報道によると、北朝鮮の「大同信用銀行(DCB)」もモサックの顧客で、06年にバージン諸島にフロント企業「DCBファイナンス」を設立し、同国の軍需企業のための資金調達など秘密の金融工作に当たっていた。DCBは13年以降、米国の制裁対象に指定されている。
ICIJによると、文書に出て来る政治家や政府高官は140人に上る。幸いと言うべきか、これまでのところ日本の政治家の名は出て来ていないが、経済界では、セコムの創業者の飯田亮と故戸田寿一=両最高顧問が大量の自社株をバージン諸島に移して管理する仕組みを作って、個人の持ち株を小さく見せかける操作を行っていた。他に福岡県のトレーダーや兵庫県の男性など400人ほどの名もあるらしい。