戦略不在
こういう外交の失敗はなぜ起こるのでしょうか? 戦前と同じで「戦略がない」のだと思います。「戦略」とは、「戦争に勝つ方法」という意味。そして、「戦略の重要ポイント」は、「優先順位をつけること」です。
たとえばアメリカ。第2次大戦のときは、宿敵ソ連と組んで、日本、ドイツと戦いました。戦後は、旧敵日本、(西)ドイツと組んで、ソ連と対峙しました。70年代には、戦いをさらに有利にするため、中国と和解しました。
日本には、こういう発想がない。それで、1937年に日中戦争が始まったとき、中国、ソ連、アメリカ、イギリスが、「みんな敵」になっていたのです。
こういう視点から現状を見てみましょう。アメリカ、ロシア、ウクライナ。この3国で、最重要は、軍事同盟国アメリカでしょう。次にロシアでしょう。最後のウクライナは、距離的にも遠く、実質破産国家であり、ほとんど何の関係もありません。
優先順位は
- アメリカ
- ロシア
- ウクライナ
であるはずです。ところが、日本政府は、
- オバマのいうことを無視することで、「アメリカよりロシアとの関係が大事だ」というメッセージを発した。
ところがその後、
- 総理はポロシェンコと会い、ともにロシアを非難。2,000億円支援をすることで、「ロシアよりウクライナが大事」というメッセージを発した。
結果、外国から見ると、日本政府の優先順位は、
- ウクライナ
- ロシア
- アメリカ
になってしまっています。
エゴ
もう1つの問題点はエゴです。エゴとは、「自己中心」という意味ですが。何かについて強く「欲しい」と思うと、冷静な判断力がなくなります。たとえば戦前、日本は、「世界を敵にしても満州国を建国する」と決意していました。そして、結果として破滅した。
今、総理は、「任期中に北方領土問題を解決する!」と決意しておられる。それはもちろんいいのですが、総理がそう思っても、プーチンが「嫌だ!」といったら、それまでです。それをゴリ押しすれば、ロシア側はうんざりして、日ロ関係はますます悪化するでしょう(実際、悪化しています)。また、「北方領土問題解決」にまい進することで、アメリカや他の国々との関係に無頓着になります。
というわけで、
- 戦略をたてること、優先順位をつけること、それに従って行動すること。
- 自分、自国の利益と共に、相手国や関係国の利益、感情、反応も考慮すること。
という極めて常識的な方策が、今の日本には必要なのでしょう。
『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
<<登録はこちら>>