就任当初から数々の暴言で何かと物議を醸した籾井勝人NHK会長ですが、それから2年の間、局内で次々と粛清人事を行うなどしてますます安倍政権寄りの姿勢を明確にしているといいます。この動きにメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、そもそも公共放送であるNHKの人事に内閣が深く関与していることに問題があると指摘、これでは真の民主主義国家とはいえないと厳しく批判しています。
籾井会長によるNHK粛清人事の2年余
ことし2月17日、NHKの専務理事2人が退任した。塚田祐之、吉国浩二。いずれも籾井勝人会長に辞任を迫られ、拒否すると閑職に追いやられて、不遇をかこっていた。とうとう最後まで籾井に反旗を翻すことができず、任期切れを理由にNHKを去ることになった。結果としては、敗北である。現職に奮起を促す数多くのOBの期待に応えられず、無力さを感じただろう。
「政府が右と言っているものを我々が左と言うわけにはいかない」
すっかり有名になったこの言葉通り、籾井は安倍政権の「右」路線に反しないよう、放送現場に圧力を加えてきた。
2014年1月に就任以来2年余り、彼がNHKにおける権力の拠り所としてきたのは「粛清人事」だった。着任早々に秘書室長を交代させて以来、恣意的な担当替え、配置換えにより、事実上の降格人事を乱発した。
塚田、吉国が退任のあいさつをした今年2月9日の経営委員会。議事録にこんなシーンが記録されている。
籾井会長「塚田祐之専務理事、吉国浩二専務理事の2人は2月17日に任期を迎え退任されます。(中略)お2人が担当しておられますターゲット80プロジェクトの統括補佐重点地域については、プロジェクト統括の堂元副会長、統括補佐の福井専務が引き継ぎます」
2人の専務理事が担当していた「ターゲット80プロジェクト」とは、受信料支払い率80%をめざすという、いわば「社内目標」だ。たしかに受信料の徴収を増やすことは重要な仕事には違いないが、この営業活動を統括していたのは堂元副会長である。なんとその補佐に、2人の専務理事をつけたのだ。どこの世界に、高給の専務2人を、営業会議に出席するくらいしか仕事のない、いわば「窓際」に押しやっているような会社があるだろうか。
その日の経営委員会で、籾井に疑問をぶつけた委員が1人いた。美馬のゆり(公立はこだて未来大学システム情報科学部教授)だ。
美馬委員「塚田専務と吉国専務がターゲット80のご担当になった時、2人の専務の担当がターゲット80だけになるのは効率的な経営なのかと ご質問しました。会長は、『これはとても重要な任務だ』とおっしゃっていたのに、今回はそこを誰にも引き継がず兼務としていることについて、十分だとお考えなのでしょうか」
2人の専務が専任であたらなければならないほどの重要な仕事なら、その後を誰も引き継がないで、統括責任者の堂元副会長らが兼任するというのはおかしいではないかというのが美馬の指摘だ。もっともな意見である。
これに対し籾井は「非常に難しい最初のステップをお2人にきっちりと進めていただいたと思っております」などと、ごまかし、それ以上の議論にはならなかった。もちろん美馬は納得がいかなかっただろうが、彼女の追及を後押しする意見もなく、議論はそこで途切れた。
経営委員会は「役員の職務の執行を監督する機関」である。12人の委員のうち7人が賛成すれば会長を罷免できる権限を持っている。任期を迎えた理事の退任とはいえ、会長の人事のやり方に明らかな矛盾がある以上、徹底的に審議を尽くすべきであろう。