平和の破壊。「暴政」北朝鮮をどうやって追い詰めればいいのか?

 

キューバ危機は核戦争寸前

Q:では、北朝鮮への経済制裁にあまり効果がないからといって、軽はずみに「次は海上封鎖だ」などと口にすべきではありませんね?

小川:「そうです。海上封鎖にともなう臨検は、公海上とはいえ、監視の目が行き届きません。そこで小競り合いが起こり、死傷者が出るなどして緊張が高まり、一気に戦争に突入する恐れもあります。国連安保理の決議がなくても、『この指止まれ』で有志連合による北朝鮮に対する軍事制裁がおこなわれる可能性は、ゼロではありません。そうなれば韓国は大混乱し、崩壊してしまう恐れすらあるでしょう。大量の難民が中朝国境を越えて流入することは中国も絶対に困りますし、日米もよいことなどありません。軍事制裁の一歩手前の海上封鎖は、本当に打つ手がなくなった最終段階の話です」

「海上封鎖で誰もが思い出すのは、1962年のキューバ危機ですね。1959年1月のキューバ革命で誕生したカストロ政権は、当初アメリカと友好関係を保つとして全方位外交を掲げ、革命の同志で工業大臣になったチェ・ゲバラを訪日させたりしましたが、アメリカが冷遇した結果、キューバはソ連に接近して共産化を進め、アメリカとの対立を深めました」

「1960年3月には米アイゼンハワー大統領とCIAがカストロ政権転覆計画を秘密裏にスタートさせます。キューバからの亡命者1,500人を反革命傭兵軍として組織化し、上陸作戦の訓練をしています。1961年1月に就任したケネディ大統領は計画を引き継ぎ、4月15日にピッグス湾事件を起こしましたが、CIAがキューバ軍を過小評価したうえ、米空軍の援護がうまくいかず失敗に終わりました。直後にアメリカは経済制裁の発動を発表し、8月には再度のキューバ侵攻作戦準備をスタートさせます。一方、ソ連はキューバへの爆撃機やミサイルの配備を秘密裏に進めました」

「1962年10月14日に米軍のU-2偵察機がミサイルを発見すると、緊張は一気に高まり、ケネディ大統領は22日の全米テレビ演説でキューバに核ミサイルが持ち込まれたと発表してソ連を非難する事態となりました。大統領は翌23日、海上封鎖、つまりキューバ海域の公海上に設定した海上封鎖線に向けて航行するソ連貨物船を米海軍艦艇が臨検する命令書に署名し、従わない貨物船は警告のうえ砲撃すること、ソ連側から銃撃などの敵対行為があれば撃沈することも指示しました」

「同時に全世界の米軍は臨戦態勢をとり、米国内の大陸間弾道ミサイルの発射準備をする、核爆弾を搭載したB-52戦略爆撃機や核ミサイル原潜をソ連国境近くに進出させ24時間体制で警戒するなど、全面核戦争の危機が現実になったのです。ソ連政府は貨物船に対し、米海軍の設定した海上封鎖線を突破せず引き返すよう指示しましたが、10月27日にはキューバ上空でU-2偵察機がソ連軍の地対空ミサイルで撃墜され、この日は後に『暗黒の土曜日』と呼ばれるようになりました」

「2002年に公になったことですが、同じ27日、米海軍がキューバ近海でソ連潜水艦B-59を捕捉し、これが核武装していると知らずに演習用爆雷を投下する事件が発生します。同艦では報復の核魚雷を発射するかどうか議論となり、艦長・政治将校・副艦長の3人の承認が必要だったところ、副艦長アルヒーポフだけが拒否して発射が回避された、とされます。当時の米国防長官ロバート・マクナマラは2002年に『当時の我々の認識以上に、我々は核戦争に近づいていた』と語っています」

「かくいう私も少年自衛官(第7期陸上自衛隊生徒)だった1962年10月、完全武装で三日三晩待機したことがあります。このとき渡されなかったのは実弾だけです。前年4月に武山駐屯地(神奈川県横須賀市)の陸上自衛隊生徒教育隊に入隊して1年半ほどたったころでした。全世界の米軍が臨戦態勢に入ったとき自衛隊も訓練名目で待機しましたが、訓練とは名ばかりで実際に動くことを想定していたと知ったのは、私が自衛隊や在日米軍の研究をするようになってからのことです」

「韓国では今回『いよいよ核武装のとき』と発言した国会議員がいた、という報道がありました。いつでもどこでも、そんな威勢のよい発言が聞かれますが、核武装にせよ海上封鎖にせよ、それが何を意味するのか熟知したうえで語られなければなりません。海上封鎖は臨検して船の出入りを止めること、といった漠然とした一般論では語れない、世界戦争につながりかねない大問題なのです」

(聞き手と構成・坂本 衛)

 

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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