無料メルマガ『知らなきゃ損する面白法律講座』で、身に覚えのない罪で逮捕勾留された際の体験を書き綴る元弁護士・山本至さん。今回は留置所で出会った銅線窃盗犯のエピソード。容疑者自らが赤裸々に語ったその手口や、彼に付いたいい加減な国選弁護人の問題点などが記されています。
ある弁護士の獄中体験記 「銅線窃盗」
その当時、銅線窃盗がはやっていた。運動時間に見知っていた銅線窃盗犯が隣の2号室から3号室に移ってきた。
当時の私は、銅線なんか盗んで費用対効果はどうなっているのだろうと思っていた。ここから先はあくまでも彼の話によるものであることを念のために言っておく。
工事現場などに、意外と銅線などが捨てられており(置いてあるだけだと思うんだけどな~)、これが割とお金になるそうだ。銅を含む金属類は、銅の含有率によって相場が異なるのだが、銅線はその含有率が高いとのことで銅線専門になった。
逮捕容疑は九州電力の某工場近くに山積みされていた銅線を盗んだというものである。銅線の包みを剥がし、貼付されているシール類もすべて取り去った上で、近くの田んぼに持っていく。その田んぼの泥で銅線をわざわざ汚して、しかも合法的に入手した他の銅線に混入させるというなかなか手の込んだことをする。
彼はガラクタ屋を経営しており(聞いたところちゃんと古物商の免許を持っているとのこと)、そこへ運び込んだ銅線をそのまましばらく放置しておく。ほとぼりの冷めるのを待つらしい。その後知り合いの専門家(故買屋のことか?)に売却するとのことであった。ところがいつものように銅線を運んでいると、職務質問にあいすべてがばれてしまったらしい。
またあるときには、高価なある商品(あえて特定しない)が完全な梱包のまま持ち込まれ盗品と疑いつつ5万円で買い取った。私としては、「疑いつつ」ではなく、盗品と確信していたのではないかと思った。これを以前からその商品を欲しがっていた人に、型落ちしてはいるが新品だからということで、30万円で売却したそうで、いい商売だと自慢していた。
警察の取調べでは余罪の追及が厳しかったようで、相談を受けた私は一般論として、物証が出ていない限り捜査機関が立件することは難しい、余罪を自白して裏付け捜査の結果、他の証拠が集まったら立件されるとだけアドバイスをした。彼は余罪なしで頑張ったようで、そのうち取調べがなくなり、タバコを吸えないとこぼしていた。
ところがある日、回覧された新聞を読んでいると「某県で組織的な銅線窃盗摘発」との記事が掲載されており、さっそく彼に新聞を回してあげた。ほとんど冗談で「あなたも関与しているんではないかと疑われて取調べが再開されたらタバコ吸えるね」「そうだね」などと能天気な話をしていたら、彼はその翌日に取調べとなった。関与していないと否認したら1回だけの取調べで終わってしまった。