TPPは甘えを許さない仕組みだ。「内国民待遇」など協定のルールを守らなければ、訴訟大国の多国籍企業がワシントンの国際投資紛争解決センター(ICSID)に訴えを起こすだろう。
グローバリズムは、自由の名のもとに、支配と従属の構造を持つ、いわば現代の植民地政策ともいえる側面がある。アメリカがどうしても日本をTPPに引き込みたかった真の理由はそこにあるのではないか。
先述した国際投資紛争解決センター(ICSID)についてだが、第9章「投資」には、次のような取り決めが記されている。
投資紛争が生ずる場合には、申立人及び被申立人は、まず、協議及び交渉を通じて、当該投資紛争を解決するよう努める。…六箇月以内に投資紛争が解決されなかった場合には…申立人は、請求をICSID条約及びICSIDの仲裁手続に関する手続規則による仲裁に付託することができる。
アメリカ、カナダ、メキシコの北米自由貿易協定(NAFTA)と同じように、TPP協定にもISID(投資家対国家の紛争解決)条項が盛り込まれている。
詳しい説明は省くが、紛争解決の仲裁を受け持つのがICSIDである。ICSIDは世界銀行傘下の機関で、同銀行のサイトには「国際投資紛争の調停と仲裁を行う場を提供することで、外国投資の促進に貢献しています。国際投資協定の多くはICSIDを仲裁機関に指定しています」などと書かれている。
長く続いた交渉は、日本国民の目から不都合な真実を覆い隠すための文言や数字づくりに精力を費やしたのが実態ではないか。アメリカ流のグローバリゼーションを唯々諾々と受け入れ、富の収奪に手を貸すだけの合意に終わったのではないか。
戦後、アメリカは、霞が関官僚や研究者を、米名門大学への留学という形で取り込み、米国的な思考法を日本のエリート層に浸透させてきた。かくして米国を怒らせないことが霞が関の政治的現実になってしまった。官僚機構のお飾りに過ぎない大臣は、その振り付けで踊るより仕方がない。甘利もその1人、ということだ。
踊る以外にやっているのは、やはり「口利き」「パーティー」のたぐいだろう。
『国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋
著者/新 恭(あらた きょう)
記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。
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