カトリックとロシア正教は、なぜ和解するの?

 

衰退するキリスト教

新聞には書かれていませんが、カトリックやロシア正教は、共通の悩みを抱えています。

1つは、イスラム教の勢力拡大です。世俗化したキリスト教徒は、なかなか子供を産みたがりません。

一方、イスラム教徒は、一夫多妻で、どんどん増えていく。現状、「キリスト教徒は世界20億人」「イスラム教徒は14億人」と言われていますが、後20~30年したら逆転されることでしょう。

もう1つは、欧州キリスト教文明の危機です。皆さんご存知のように、欧州は今、シリア、イラク、アフガン、リビアなどからの難民問題でとても困っています。去年、ドイツだけで100万人難民が来たという。

難民を支える経済的問題もさることながら、「難民はみんなイスラム教徒」というのも、キリスト教から見ると問題でしょう。つまり、ドイツは去年、「100万人イスラム教徒が増えた」ともいえるのです。実際、このままだと、EUは、いずれ「イスラム圏」になってしまうことでしょう。

さらに、「キリスト教的価値観が崩壊していくのも、カトリック、ロシア正教共通の悩みです。キリスト教的価値観に代わって、欧米で支配的になってきたのは、「人権主義」です。「いいことじゃないか!」と日本人は思いますね。「そもそも、キリスト教と人権主義は違うのか?」とも思えます。しかし、結構大きく異なっているのです。たとえば、

・人権主義者は、「同性婚を認めよ!」と主張します。
・伝統的キリスト教は、「結婚は異性間のものだ」と主張します。

プーチンは、「同性婚に反対」ですが、これは「ロシア正教」の見解でもあるのです。

・人権主義者で、「一部の麻薬を合法化しよう」と主張する人がいます。
・伝統的キリスト教は、麻薬に反対しています。

・人権主義者で、「売春を合法化するべき」と主張する人がいます。「売春婦の人権を守れ」と。
・伝統的キリスト教は、売春に反対です。

・人権主義者は、「中絶に反対するのは非人道的」と主張します。
・カトリックもロシア正教も、中絶に反対しています。

・人権主義者は、「尊厳死を認めよ」と主張しています。
・伝統的キリスト教は、「寿命を決めるのは神様だけ」として、「尊厳死」に反対しています。

このように、「人権主義」と「伝統的キリスト教」の価値観は、細かいところで大きく異なっている。そして、欧米を見ると、伝統的キリスト教の価値観は衰退し、明らかに「人権教が勢力を伸ばしている。カトリックとロシア正教は、共に「伝統的キリスト教価値観を守りたい」という意志があるので和解に動いたのでしょう。

歴史的会談の影響は?

ローマ法王とロシア正教総主教が会談し、カトリックとロシア正教は、和解への道を歩みはじめた。だからといって、私たちの生活は何も変わりませんが。

しかし、カトリックとロシア正教の和解は、政治的に「イスラム教に対抗するため、キリスト教の欧米ロは一体化すべき」という潮流を作り出すかもしれません(イスラム教というと問題になるので、「イスラム原理主義」「IS」「イスラム過激派」などという用語がもちいられるでしょう)。

まさに、ハンティントン博士の「文明の衝突」ですが。日本は、かかわらないよう、まきこまれないよう気をつけましょう。むしろ「和の思想」によって、宗教観の和解を主張すべきです。

image by: Shutterstock

 

ロシア政治経済ジャーナル
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
<<登録はこちら>>

print
いま読まれてます

  • カトリックとロシア正教は、なぜ和解するの?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け