今年の節分、売れ残って大量に廃棄される恵方巻きが話題になった。同じ2月3日、フランスではスーパーなどの小売店で食料品の廃棄を禁止する法律が可決された。この案を通そうと奔走した人物は、ゆくゆくは欧州連合にまで広げたいとしている。
下院も上院も満場一致
フランスのこの法律は、消費期限や賞味期間が切れた食料品の廃棄を禁止するもの。2015年12月に、下院にあたる国民議会で満場一致で可決され、上院でも2月3日、同じく満場一致で可決されて法律として成立した。売り場面積が400平方メートル以上のスーパーは、食料品を廃棄せずに寄付する契約を慈善団体と締結しなければならなくなる。さらに、「食中毒防止」として廃棄食品に漂白剤や水をかけるなどの慣行があったが、こうした処置も禁止となる。この処置は表向きには食中毒防止とされていたが、実際は廃棄食品が漁られるのを防止するためだったと言われている。今回成立した法案に違反した場合、最大3750ユーロ(約48万円)の罰金となる可能性がある。
まだ食べられるのに廃棄される食品は「食品ロス」と呼ばれる。こうした食品を引き取り、食べ物に困っている人たちに配る組織は「フードバンク」と呼ばれる。フランスのとあるフードバンクの代表者が英ガーディアン紙(2月4日付)に語ったところによると、フランスでは法案成立前から、スーパーが食料品をフードバンクに寄付する流れがあった。しかし集まる食品の栄養バランスは偏りがちで、肉や野菜、果物といった生鮮品が不足していた。そのため、今回の法案でこうした不足をまかなえるようになると期待しているという。さらに、食品の品質が上がりバラエティも増えるだろうとしている。
本法案を可決させるために奔走した議員は、「次のステップは、この法律を欧州連合全域にまで拡大するよう、オランド大統領に依頼すること」という。さらに、スーパーのみならず、レストラン、パン屋、学食、社食での食品ロスにも取り組んでいきたいという。
英は食料廃棄新案審議中。米は後ろ向き?
同紙によると、イギリスではサプライチェーンでの食品廃棄を減らすために、政府と小売業者が自主協定を結んでいるが、目標値などはなく法的義務もない。しかし英議会には現在、食料廃棄を削減するための法案が出されており、今年3月にさらに詳細がつめられる予定だ。
一方でアメリカでは、米版ギズモード(2月5日付)によると、毎年、製造された食品の40%が食べられずに終わるという。2010年に廃棄された食品は467億ドル相当で、そのほとんどが、腐るどころか賞味期限が過ぎてもいなかった。しかしフランスのこの新案が最初に仏下院で可決された2015年5月、29日付けの米雑誌アトランティックは、アメリカはフランスのようにはいかないと主張していた。アメリカにはすでに、かなりしっかりとした食品寄付の制度が存在するというのだ。例えば同国最大の食料支援組織フィーディング・アメリカは、年間4,650万人に食事を提供している。また、食品を寄付する税の優遇措置がすでに存在している。さらに、例えば寄付された食品を食べた人に害があった場合でも、善意から寄付した場合は寄付した者は罪に問われない「善きサマリア人の法」もある。アトランティックはまた、アメリカ農務省の職員の話として、安全で体にいい食べ物を届けるための物流は非常に難しく、わずかばかりの食料を無駄にしないために高価なシステムを構築しても、誰にとっても利点はないという考えを紹介している。
「もったいない」は日本のお家芸だが……
それでは日本の状況を見てみよう。日本には、2000年に施行された食品リサイクル法が存在する。ただしこれは、フランスのように食品ロスを貧しい人たちに寄付することを目的にしたものとは異なり、食品廃棄物の排出を抑制したり、出た廃棄物を飼料や肥料、油脂製品などに加工して活用することを目指すものだ。
また、フードバンクは日本にも存在し、寄付した場合に税制上の優遇措置がある。しかし設立されるようになったのは2000年以降など、1967年に世界に先駆けてフードバンクが設立されたアメリカと比べるとかなり遅い。日本のフードバンクは通常、集めた食品を児童養護施設や福祉施設などに配ったり、炊き出しに使ったりするという。ただ組織によっては、消費期限や賞味期間が切れた食べ物や生鮮品は受け付けないというフードバンクもある。
消費者庁では、食べ物の無駄をなくすプロジェクト「食品ロス削減国民運動」が立ち上げられている。消費者庁によると、日本では年間500万〜800万トンの食品ロスが発生している。その約半数が一般家庭から出るため、このプロジェクトは「もったいない」を合言葉に、その削減に取り組んでいる。
というように、日本では食料廃棄を削減したり活用したりするための制度はわりと整備されているように思える。しかし冒頭の恵方巻きの大量廃棄で見られたように、まだまだ膨大な量の食品が捨てられている現実も存在し、取り組みが十分とは言えないかもしれない。
ところで、消費者庁の「食品ロス削減国民運動」によると、現在世界では約8億人が栄養不足の状態にいる。ここでは国内の数字には触れていないが、この「栄養不足の人たち」や「貧しい人たち」は、遠いよその国のことだろうか?米中央情報局(CIA)によると、「貧困線」以下で暮らしている人の割合は、日本の場合16.1%。フランス(8.1%)やアメリカ(15.1%)と比べて高い。同じアジアの国と比較しても、中国(6.1%)、韓国(14.6%)とやはり高い。フランスとは気候や湿度が異なる日本では、食品ロスをそのまま食品として活かすことは衛生上難しい点も多くあるかもしれない。しかし食べられない人がいるなか、「もったいない」の言葉を生んだこの国で、大量の食品が廃棄されていく現状にできることは他にないだろうか。
(松丸さとみ)
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