日本の最南端に位置する沖ノ鳥島にある観測施設の建て替え計画が発表された。老朽化が進む鉄筋3階立ての島の主要施設を、130億円を投じて2020年度の完成を目指して建て替える。
日本は沖ノ鳥島を基準点に、排他的経済水域(EEZ)を設定しており、その面積は日本の領土(約38万平方km)よりも広い40万平方kmに及ぶ。また、米海軍基地があるグアムと台湾のほぼ中間点にあり、軍事戦略上の重要拠点でもある。中国は、かねてから沖ノ鳥島はEEZを設定できる「島」ではなく、単なる「岩」であると批判しており、今回の工事についても反発が予想される。ただし、自らの南シナ海での人工島建設が国際世論の批判を浴びているなか、ストレートな批判は難しいという見方もある。
中国船の監視機能も強化
建て替えられる観測施設は、満潮時に水面下に没する陸地の上に建設された架台の上に建っている。周辺の気温や波高の観測を行っているほか、島の護岸の補修・点検工事などの際の人員の滞在拠点にもなっている。また、近年は周辺海域での中国船の活動が目立っているが、不審船の往来はこの施設からカメラやレーダーで観測されており、データが随時本土に送られている。建て替えにより、こうした監視機能の強化も図られる。
沖ノ鳥島は、東京から1700km離れた日本最南端の島。小笠原諸島の南端の絶海の孤島で、東西約4.5km、南北1.7km、周囲11kmの環状のサンゴ礁だ。干潮時には環礁の大部分が海面上に出ているが、満潮時には、環礁に囲われた環池内の「東小島」と「北小島」を除いて海面下に没する。この2つの小島が水没してしまうと国連海洋法条約が定義する「島」だと認められなくなる可能性があるため、日本政府は、1987年よりコンクリート製護岸や消波ブロックを設置する補強工事を行っている。また、サンゴ礁の生態系を活性化させることによる「自然の力による造成」の計画も進められている。
EEZの設定は国連海洋法条約が定義する「島」(自然に形成された陸地で、満潮時にも水面上にあること)を起点にしなければ設定できない。一方、同条約は「人間の居住または独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域または大陸棚を有しない」としている。中国と韓国は、沖ノ鳥島をこの「岩」であるとし、日本が設定したEEZの無効を主張。2001年ごろから中国船が沖ノ鳥島のEEZ内で頻繁に調査活動などを強行している。
中国が沖ノ鳥島を非難する「皮肉」
国連海洋法条約は、「人工島、施設、及び構築物は島の地位を有しない」とも定めている。そのため、南シナ海での「人工島」の建設で国際社会の非難を浴びている中国が今、沖ノ鳥島の「島」としての地位や観測施設の建設を非難することが難しくなっているという見方もある。香港のサウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙(SCMP)は、実際、これまでのところ日本の建て替え計画に対する中国政府は無反応を貫いていると指摘している。
もっとも、いずれ何らかの非難声明が出るだろうという見方が強いようだ。国際基督教大学(ICU)のスティーブン・ナギ助教授(政治・国際関係)は、「南シナ海で中国が行っていることを思えば、中国がどんな反応をするのか興味深い」としたうえで、尖閣問題と絡めて日本を非難するだろうと予想する。ただし、「自らが南シナ海で行っていることと、この問題を切り離そうとするはずだ」とSMCPにコメントしている。同紙は、「中国がパラセル諸島とスプラトリー諸島でまさに同じことをしている今、日本の沖ノ鳥島開発は許されるべきことではないと主張するのは、皮肉なことだと見られている」と記している。
英紙ガーディアンも、尖閣問題と南シナ海問題で日米中の緊張が高まる中、沖ノ鳥島の重要性が増していると指摘。近年は尖閣問題の影に隠れて見落とされがちだったが、「日本は、沖ノ鳥島の監視塔を再建するために130億円を投じると発表した。この動きは、日中の長年の領海争いに再び火をつける可能性がある」と記している。同紙は、国連海洋法条約の「島」の定義があるために、日本は中国が南シナ海でやったような人工島の建設を行わず、その代わりに今あるサンゴ礁が消えて無くならないように努めた、と報じている。
日中両国にとっての戦略的重要性
ガーディアンは、沖ノ鳥島のEEZ内には、豊かな漁場があり、石油などの天然資源の埋蔵も期待できると紹介している。また、台湾とグアムの中間点にあり、台湾有事の際には、中国海軍の潜水艦や艦艇が、米軍を迎え撃つためにこの海域に展開すると予想する。
元海上自衛隊海将で岡崎研究所理事の金田秀昭氏は、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)に、沖ノ鳥島が日本の安全保障戦略上重要である3つの理由を挙げている。
1)中国軍の東からの増援に対する防波堤となる
2)中国海軍の原潜の太平洋進出のルート上にある
3)オーストラリア北部・西部の港から日本に天然資源を運ぶシーレーン上にある
そのため、中国は今後も沖ノ鳥島を巡る動きに神経を尖らせ続けるというのが大方の識者の見方だ。FTは、中国の南シナ海の島々が「人工」なのは疑う余地はないとすると同時に、沖の鳥島についても、たとえ研究が進んでいるサンゴ礁の再生がうまくいっても、それが「自然に形成されたかどうかは議論を呼ぶだろう」と記す。
小さな絶海の孤島を巡る争いはますます大きくなっていきそうだ。
(内村浩介)
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