実業家で前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏が、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)のインタビューで、独立系候補として米大統領選に出馬する可能性があることを認めた。これまでも出馬に関する動きを伝えるメディアはあったが、自らその意思を語ったのは今回が初めてだ。同氏が参戦することになれば、米大統領選の流れは劇的に変わりそうだ。
大富豪で元市長。成長志向で強気が売り
ブルームバーグ氏は73歳。ユダヤ系移民の子供で、ボストンの出身だ。ハーバード・ビジネス・スクール卒業後、証券業界に身を置いたが、1981年に大手総合情報サービス会社ブルームバーグの前進となる会社を設立。同社の成功で、世界的な大富豪となった。2002年より12年間ニューヨーク市長を務め、退任後ブルームバーグ社のCEOに復帰している。
政治コンサルタントでブルームバーグ氏の世論調査も担当するダグラス・シェーン氏は、ブルームバーグ氏を「財政的に慎重で平和的に物事を進め、成長志向で強気の姿勢を持つ人物」と評し、アメリカ経済を強くするための包括的な移民制度改革、次の世代のための地球環境保護、疎外される人を出さない一体感、公衆衛生、地域の安全を高める社会政策を、同氏が支持していると述べる(ウォール・ストリート・ジャーナル紙、以下WSJ)。
候補者の質の低さに失望
FTのインタビューで、ブルームバーグ氏は大統領レースの討論の質がひどすぎると批判し、アメリカの市民は「もっとましな」話を聞く資格があると断じた。現在の有力候補者たちのへの失望が、同氏に出馬を検討させたことをFTは示唆している。
実はFTより先に1月23日付のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)が、ブルームバーグ氏が大統領選に名乗りを上げるようだと報じていた。同氏はすくなくとも私費で10億ドル(約1200億円)を大統領選に投じる用意があり、独立系候補として全50州の投票用紙に名前を載せることが可能な期限である3月初めには、最終決断をするつもりだと親しい間柄の人達に語っていたらしい。
そして匿名の関係者によれば、出馬の条件は共和党がドナルド・トランプ氏か保守強硬派のテッド・クルーズ氏、民主党がバーニー・サンダース氏を指名する流れに向かった場合だった。ブルームバーグ氏とヒラリー・クリントン氏両方と親しい元ペンシルバニア州知事のエドワード・レンデル氏も、左右の活動家候補が優勢となれば、ブルームバーグ氏は出馬するだろうと述べている。
結局、状況はブルームバーグ氏の嫌う方向に向かった。共和党レースは大衆を扇動するポピュリスト・キャンペーンを行うトランプ氏に占拠され、ニューハンプシャー州の予備選では圧勝かという世論調査の結果が出た。民主党では、社会主義者と名乗るサンダース氏が、クリントン氏に大差をつけてリードしていると報じられている(FT)。このような事情から、今回の意思表示がなされたようだ。
FTは、ブルームバーグ氏の参戦で、劇的に選挙戦が変わると述べ、リベラルなブルームバーグ氏が参戦した場合、民主党の支持者を引き付け、共和党候補者を利することになると多くの専門家が指摘していると述べる。FTによれば、トランプ氏はブルームバーグ氏の参戦を以前から歓迎。サンダース氏の支持者は、自陣の体制には影響はないと答えている。一方、自分が指名されなかった場合に参戦すると思われていたブルームバーグ氏の出馬という脅威に対し、クリントン氏の広報担当はコメントを控えた(FT)。
新たな受け皿となれるか?
NYTは、選挙戦ではブルームバーグ氏には大きな障害が待ち構えているだろうと指摘。独立系候補が大統領に選ばれたことは今までにないと指摘し、同氏のウォール・ストリートとの強いつながりや、社会自由主義的考え、また中絶や銃規制支持の立場が、左右両方の有権者を遠ざける場合もあると見ている。
一方、前出のシェーン氏は、大いに可能性があると見ている。同氏はWSJに寄稿した記事の中で、有権者が怒って二極化に向かっているとメディアはいうが予備選に行く有権者は減少傾向で、極端にリベラルか保守的な人ばかりが投票し、トランプ氏やサンダース氏の支持拡大につながった印象になっていると指摘する。「新たな物言わぬ多数派」となっている中道のアメリカ人にアピールする政治家がいないなか、ブルームバーグ氏こそがその受け皿に選ばれるだろうと述べている。
(山川真智子)
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