「未来から助言が届く」。映画や小説によくある設定ですよね。
土屋太鳳主演の映画『orange-オレンジ-』では、未来から来た手紙で好きな人を救おうと動き、韓国映画の『イルマーレ』では、男性の死という運命を変えるために女性が手紙を過去に送ります。他にも、『オーロラの彼方へ』や『STEINS;GATE』など、時空を超えた愛の物語が数多く生まれています。
そのどれもが、自分や大切な人の運命を変えようと四苦八苦する作品ですが、これまでとは一線を画す、不思議な短編小説を紹介します。
時は2080年。医学が発達し、自分の寿命が正確にわかるようになった未来世界。主人公は余命45日と「死の宣告」をされてしまう。逃れられない運命に絶望した彼は、恋人に別れを告げるなど終活を始めるのだった。そんな死を間近に迎える男の前に、ある日、1通のメールが届く。その差出人は「1年後の自分」からだった……。
45日後に死ぬ予定なのに、1年後の自分からメールが届くとは一体どういうことなのか? 宣告された自分の寿命は嘘なのか? 自分の運命は変わるのか? 衝撃の結末は、以下にてお楽しみ下さい。
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『嘘』 綿瀬 夕
西暦2080年。産業革命から続く技術革新は留まる事を知らず、今もなお成長を続けて僕達の生活を豊かにしていた。
電車や車は全て無人運転。家電製品はその人の脳波に合わせて作動し、その人が過ごしやすい環境を提供してくれる。開発こそされていないが、タイムマシンももうすぐできるという噂だ。正直これ以上の進歩は無いのではないかと言われている。
そんな科学技術の進歩の中でも特に発達した分野は医学だった。ありとあらゆる病気は全て治療薬が開発され、診断技術も格段に上がり誤診などは万に一つも起こらない。不治の病なんて言葉はもはや都市伝説と化した。これらはすべて、20年ほど前つまり僕が生まれた頃に導入された医療機器「ラプラス」によってもたらされた恩恵である。
ラプラスに血圧、体温、年齢などありとあらゆるデータを打ち込む事でその人の体調を正確に読み取り、具体的にどこに問題点があるのかが分かる。さらに驚くべき事に、導きだした健康状態からその人の寿命を正確に導き出すこともできる。
名前の由来は、物理学者のピエール=シモン・ラプラスによって提唱された空想上の生物「ラプラスの悪魔」だ。与えられたデータから寿命を算出し、さらには患者にその事実を容赦なく突きつける。これほどまでにふさわしい名前はないだろう。
僕は今その悪魔の目の前にいる。
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こちらの作品は、「まぐまぐ」と小説投稿サイト「エブリスタ」で行われた『三行から参加できる 超・妄想コンテスト 第12回 withまぐまぐ!』にて、見事、まぐまぐ賞に輝いた綿瀬 夕様の『嘘』という作品です。
本コンテストは「○年後の私からメールが届いた」というテーマで小説を応募。綿瀬 夕様の『嘘』以外にも、恋愛、SF、純文学と様々なジャンル、構成の作品を500以上も応募頂きました。
1年前にメールを送ることができるアプリで恋人と別れようとする話や、約1年後の自分とメールできるため達観したバーのマスターの話など、1ページ目を読むだけで続きが気になる、そんな作品がそろっていますので、ぜひ他の受賞作品も読んでみてください。
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