2000年代に入って以降の15年ほど、交通事故による死亡者数は一貫して減り続けていました。しかし、残念なことに2015年は前年に比べて、4名増加し、死亡者数は4117人となってしまいました。
ファイナンシャルプランナー(FP)の仕事をしている関係で、交通事故や自動車保険、損害賠償などの話は日常的に耳にしますが、ここでは年頭にあたり、昨今の国内における自動車事故の傾向と、それが示す可能性について考えてみたいと思います。
交通事故による死者の数の推移
今度は、交通事故の死亡者を年齢階層別に見てみましょう。16〜24歳の若年者層は1993年に3000人を切って以来、基本的に減少傾向にあり、2010年には469人と、500人を下回りました。劇的に減っているのがわかります。
一方、65歳以上の高齢者層は、2001年の3216人から減少に転じ、2005年には2924人と、3000人を切りましたが、その減少の幅は若年層ほどではありません。そして、2013年には逆に増加、2014年に微減という経過をたどり、2015年には前年比54人増の2247人となってしまいました。
死者数が減る中で際立つ高齢者
交通事故による死者が著しく減っているのは、65歳未満の世代です。一方で65歳以上の高齢者層の死亡者数はあまり減っておらず、このため全死亡者数に占める高齢者の割合は、逆に増え続けています。2005年で40%超だったのが、2015年では54.6%と、半数を超える結果となりました。
ちなみに、警視庁管内(都内)では2015年11月末現在で、全死亡者数に占める高齢者の割合は37.2%です。ほかの年齢層に比べるとやはり高齢者の割合は高いものの、全国平均よりも17.4ポイントも低いのは注目に値します。
高齢者が起こす事故
高齢者と交通事故で、もうひとつ思い出すのが「認知症高齢者による危険な運転」や「ブレーキとアクセルの踏み間違い」などです。そう考えると、現代は「事故を起こすのも高齢者、事故に遭って亡くなるのも高齢者」という、何とも皮肉な時代と言えそうです。
高齢者に優しい街と人づくりを
高齢者が交通事故を起こさない・交通事故に遭わないためには、どうしたらいいでしょうか? まずは、高齢者自身に身体機能や認知機能の衰えなどを自覚してもらい、無理のない生活を送ってもらうことが大切でしょう。
では、より若い世代の私たちにできることは? 現役世代は、もっと高齢者に配慮することが大切だと思います。先述の通り、警視庁管内では死亡事故に占める高齢者の割合が低くなっています。それは、バスや地下鉄など、公共交通が充実していることも理由のひとつでしょう。そして、駅やバスターミナルの構内にはエレベーターやエスカレーターが随所に設置されており、高齢者や身体にハンデのある人への配慮がなされています。
それでもまだ十分とは言えません。地下鉄の駅のエレベーターに、一見した限りでは健常と思われる若者が先を争って乗る姿を見かけることがあります。信じられないことに、エレベーターの順番を高齢者が若者に譲っている場面さえ一度ならず目撃しました。
「高齢者に優しい街づくり」は、設備だけではなく、人の気持ちも大切でしょう。両方の意味で高齢者に優しい街が実現すれば、交通事故の死亡者数は、もっと減らすことができるのではないでしょうか。
●大泉 稔(おおいずみ・みのる)
明星大学日本文化学部言語文化学科卒業。電鉄系タクシー会社の運行管理者、社会保険庁の年金電話相談員など、多数の離転職を経て現在に至る。株式会社fp ANSWER代表。保険募集人、証券外務員