覇権争いが激化してきたアメリカと中国。AIIB事件で、世界中の親米国に裏切られたアメリカは、中国との対決に本腰を入れるため、日本と韓国を取り込むことにしました。アメリカは、どのような作戦を使って日本と韓国を「味方」につけようとしているのでしょうか。国際関係アナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の中で、「慰安婦問題の解決」や「集団的自衛権の行使容認」など、あらゆる手段で日韓を取り込み、中国との戦いを進める米国の戦略について詳しく解説しています。
日韓慰安婦合意の「戦略的意義」と「問題点」1~アメリカの思惑
日韓合意があまりにも唐突だったので、「これはアメリカの圧力に違いない!」と誰もがいいます。私もそう思います。
この合意が「アメリカの圧力」で成立したとすると、「成立させた理由」は何なのでしょうか? まずアメリカが現在おかれているポジションをはっきり認識しておくことが大事です。
毎回同じ話で申し訳ありませんが、2015年3月の「AIIB事件」で、アメリカは、「中国の影響力の強さ」をはっきり認識しました。イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、イスラエル、オーストラリア、韓国など「親米国家群」をはじめとする57か国が、アメリカの制止を無視して、「中国主導」の「AIIB」に参加した。
これ、本当に重要なんです。
覇権国家というのは、「支配する国」のこと。「あれやれ!」といったら、「はい! やります!」というのが「支配」です。「AIIBに参加するなよ!」と命令したのに、57か国が「いや! 参加します!」といった。これは、「アメリカの覇権が失われている」ことの証拠。「誰もいうことを聞かない国」を覇権国家と呼べますか?
かつてソ連は、「共産陣営」の「覇権国家」でした。クレムリンが他の共産国家のトップに、「ああしろ!」といえば、「わかりました!」といってやったものです。ところが、今のオバマさんみたいに、心優しいゴルバチョフさんが登場。「(共産陣営)東欧の政治に、ソ連は干渉しない」となった。そしたら、どうなったか? 「アッ」という間に、「東欧民主革命」がドミノ式に起こった。それで、東欧は、ライバルだったアメリカと西欧の支配下に入ってしまった。「AIIB事件」も本質は同じなのです。
「あんたは、アメリカのいうこと聞くの? それとも中国のいうこと聞くの?」
この質問に、世界57か国が、「アメリカではなく、中国のいうことを聞きます!!!」と答えた。その中には、日本以外の「親米諸国」が全部入っていた。これが「AIIB事件」の本質です。
実際、日本が「AIIB」に入っていれば、アメリカの覇権は完全に終わっていたかもしれません。日本が、アメリカを救った。それで、2015年4月に安倍さんが訪米すると、大歓迎されたのです。
ようやく、「中国は、すでに覇権一歩手前まできている」ことを自覚したアメリカ。相当遅かったですが、ようやく「覇権争奪戦」に参戦してきました。
親米諸国を取り戻す戦い
で、「どうやって中国に勝つの?」という話。
去年4月から書いているのは、「経済情報戦」。「中国の魅力は、『金だけ』だから、アメリカは中国経済を破壊しにくるだろう」と。その結果が、今の中国の惨状なのです。
もう1つ、「覇権争奪戦で一番大事なのは、『孤立化戦争』である」という話もしています。
戦闘にメチャクチャ強かった日本軍。戦闘に弱かった中国軍。中国はどうしたかというと、情報戦でアメリカ、イギリス、ソ連を味方につけた。1937年に日中戦争がはじまったとき、中国はアメリカ、イギリス、ソ連から支援を受けていた。いくら日本が戦闘に強くても、これでは勝てるはずがありません。これが「孤立化戦争」の例。
「AIIB事件」ではっきりわかったのは、「アメリカは孤立している」「中国を犠牲にしてアメリカのいうことを聞く国は、親米国家群も含めてほとんどいない」ということ。もし、アメリカが中国に勝とうとすれば、「孤立化を回避しなければならない」。
「失った親米国家群を取り戻していく戦い」がはじまったのです。