Apple Watchがいよいよ発売されます。しかし巷で噂になっているものの、種類がありすぎてどれを選べばいいかわからないって人も多いはず。そこでまぐまぐは、現役メンズファッション専門のバイヤーのMBさんにApple Watchの着こなし方を聞いてきました。Apple Watchとは一体なんなのか? 時計&ファッション業界はどう思っているのか? どの服装に合わせればいいのか? ファッションにもデザインにも腕時計にも詳しい、MBさんならではの目線でApple Watchを語ってもらいます。第一回は腕時計の歴史の中で見た、ファッションアイテムとしてのApple Watchです。
ファッションアイテムとして魅力のあるApple Watch
ついに4月24日に日本発売となった「Apple Watch」。アップルとしては初の、身につけることのできるウェアラブル端末。全く新しい提案だけに「どんな製品なのか?」と疑問に思う人もいるはず。
アップルの代表製品「iPhone」は日本上陸時に「日本では流行らない」「日本の携帯電話の方が優れている」と散々言われたものの、気がつけば今は電車の中で見かけるのはiPhoneだらけという状況になりました。アップルウォッチもその現象が起こるかどうか・・・。
アップル製品は常に「新しいライフスタイルの提案」を標榜します。全く新しいだけに既存の感覚では計り知れず、「一体これが何なのか?」をうまく説明できないのがアップル製品の特徴です。
アップルウォッチの魅力を形成する鍵を握るのが「アプリ開発」でしょう。
各社がApple Watch用のアプリをリリースし、様々な可能性を広げていった時に、具体的な「新しいライフスタイル像」が見えてくるでしょう。
iPhoneも発売当初は「???」といった感じでしたが、アプリがどんどん増えてくるにつれ、「こんなこともできるのか!」と魅力がわかりやすく具体化していき、普及へと繋がりました。
しかし今回、「ウェアラブル端末」ということでiPhoneにはないもう一つ別の観点からの魅力があります。それは「ファッションアイテム」という観点。
Apple Watchには「どうだ!真っ先に手に入れたぞー!へへーん!」というだけではない、ファッションアイテムとしての大きな魅力があります。
今回は時計流行の歴史と共に「何故アップルウォッチがイケているのか」の理由を語ります。
クォーツ時計と機械式時計と携帯電話の戦い
1970年代、時計業界には「クォーツショック」という時代の転換点がありました。
ぜんまいで駆動させていた「機械式時計」に変わり、水晶振動で時間を制御させる「クォーツ時計」がメインの舞台に躍り出たのです。
仕掛け人は日本企業のセイコー。
職人が手作業で作るため数十万円と高価だった「機械式時計」から、デジタルで時を制御する中国生産が可能な数千円の「クォーツ時計」に。価格はもちろん、時間を刻む精度も、ストップウォッチや日付表示などの機能性も「クォーツ時計」に軍配があがり、機械式時計のメッカであるスイス時計業界は大打撃を受けました。一般の人たちは安易に「クォーツ時計」に流れ、スイスの時計会社数はわずか10年で全盛期の半分以下に激減しました。
今後の時計業界は「クォーツ時計」の一人勝ちかと思われたものの、意外にもロレックスやオメガなどの生き残ったスイス時計ブランド達は今も順調に右肩上がりに推移しているところが少なくありません。
機械式時計が現代に残っている理由は色々なものがありますが、一つに「機能面以外の価値」へと重きを置いているところがあるでしょう。「クォーツ時計は正確だし安いけれど、一生かけて使いたいのは機械式時計」という人は少なくありません。ファッション的な価値はもちろんですが、機械式時計はメンテナンス次第では100年以上の使用に耐えます。子供や孫の世代まで受け継ぐ「形見」としての魅力なども。クォーツ時計と比べる土俵が違うため、ブランド化された数社が生き残っているのも納得できるのです。
そして機械式時計が残っている理由のもう一つ、遠因ではありますが「携帯電話の普及」があります。クォーツショック以降、一人勝ちな印象のあった「クォーツ時計」ですが、そのシェアを奪ってしまったのは意外にも「携帯電話」でした。
携帯電話の普及により、若い世代は皆時計を持たなくなってしまったのです。そもそも「機能性」と「手軽さ」が受けて普及した「クォーツ時計」ですから、「機能性」「手軽さ」どちらも携帯電話の時計機能には簡単に負けてしまいます。
違う土俵で比べる余地のある「機械式時計」とは異なり、同じ土俵で比べてしまわれる「クォーツ時計」に勝ち目はありません。結果、若い人たちの腕元からどんどん時計が消えていきました。
「時間なんて携帯電話で確認できるじゃん」
「なんで時計なんて買わなきゃいけないの?」
携帯電話が普及したせいでこんな会話が普通に展開される様になった中、唯一対抗できる存在が「機械式時計」。ファッション感度の高いデザイン、世代を超えて受け継ぐことのできるぜんまい駆動の魅力、ステータス性など、全く別次元での魅力を持つ機械式時計は、遠因ながら「携帯電話の普及」という一大変革のおかげで、その存在価値を一層高めることに成功しました。
結果、機械式時計は再び人気に。「新社会人になったから」とタグホイヤーなどの機械式時計を買う若者も珍しくなくなりました。2000年頃の「セレブブーム」も高級時計の人気後押しとなり、大きく売上を伸ばしたブランドも少なくありません。
しかし「ファッション」とは揺り戻しがあるものです。