ネットでも話題騒然、見つけたら絶対に写真を取りたくなってしまう車「金時」。一見ヤンキーご用達の改造車、しかしてその実態はなんと、焼き芋販売カーなんです。この摩訶不思議なマシンの全貌が、メルマガ『「まちめぐ!」吉村智樹の街めぐり人めぐり』で紹介されています。
スイートポテトな俺たち!デコレーション焼き芋販売車「金時」の全貌
大阪には「いもたこなんきん」という言葉がある。2006年にNHK連続テレビ小説のタイトルにもなったので、ご存知の方も多いだろう。
「いもたこなんきん」とは「さつまいも・タコ・かぼちゃ」のこと。江戸時代に人気を博した浮世草子(現在のライトノベル)作家、井原西鶴が著作のなかで「とかく女の好むもの芝居 浄瑠璃 芋蛸南瓜」と記したことから(諸説あり)女性の三大好物として語られるようになった。
いわば江戸時代版「セックスドラッグロックンロール」。さつまいもやパンプキンは美容にいい食材としてスイーツにも用いられ、現在も女性に大人気。タコも繁華街や行楽地でたこ焼きの屋台を見ないことは、まずない。年紀は変わっても、いもたこなんきんの人気は衰えない。
とはいえ、さつまいもをおいしく食べさせてくれる「石焼き芋の屋台」は、このごろとんと見かけなくなってしまった。かつては寒風が吹く季節になると窓の外から「♪いしや~きいも~」という哀切をおびた売り声が聞こえてきて、煙突からけむりを吐く軽トラを追いかけるのが楽しみだった。団地っ子だった僕は、石焼き芋のおっちゃんがやってくると、あちこちの棟から女性たちがわらわら階段を駆け降りてくるのを眺めるのが好きだった。昭和の4コマギャグ漫画といえば、石焼き芋とおならが必ずワンセットだった。そんなふうに石焼き芋は、かつては日本の冬にほかほかしたあたたかみを運び、黄金色に輝いていたのだ。
ではいったいなぜ石焼き芋の呼び声を耳にする機会が減ったのか。調べてみると、季節商品である石焼き芋を専業にしている移動販売車はほとんどなく、多くが「チリ紙交換」と呼ばれた住宅地をめぐる古紙回収車との併業であったため、古紙単価の下落によって廃業を余儀なくされ、その流れにしたがうように石焼き芋の移動販売も先細っていったのだとか。なるほど、石はやっぱり紙に負けるのか。
時は移ろう。とはいえ、街から冬の風物詩が姿を消すのはさびしいもの。そんな閑散とした石焼き芋シーンに突如、とてつもなくヒロイックなスーパーマシンが登場した。それがデコレーション石焼き芋路上販売車「金時」だ。
いかめしい車体に電飾ギラッギラ、竹槍ツンツン。「♪いしや~きいも~」という売り声は、なんとトランスミックスという、わけのわからなさ。まさに焼き芋マッドマックス。まったく予備知識なく後方からこの車が迫ってきたらきっと泣いて許しを請うだろう。
そんな「金時」は大阪や東京にさまざまな場所に出没し、ネットには「なんだあれは!」「私も発見した!」「遭遇した!」「お芋さんゲット!」と目撃例が多数アップされている。「金時にお目にかかると幸せになれる」なんて噂もたつほどに。読者の皆さんのなかには、私も見たという方もいらっしゃるのでは?
このゴージャス極まりない「金時」を制作し、焼き芋を販売しているのが大阪府守口市にアトリエを構えるアートユニット「Yotta」(ヨタ)の木崎公隆さん(36歳)と、京都造形芸術大学で教鞭をふるう山脇弘道さん(32歳)のコンビ。
Yottaは2009年12月にYotta Groove(ヨタグルーヴ)の名で3人組として結成され、ひとりの脱退と時を同じくして改名した。「ヨタ」とは、メガやギガ、テラなど国際基準単位の最上級である10の24乗のこと。「最上級のグルーブを出そう!」という意気込みで名づけたのだとか。そして、このデコデコ焼き芋マシンは、彼らの手による現代美術の作品だったのである。
「芸術のジャンルですか? うーん。カテゴリーに入れるなら、パフォーマンスといわれればそうなるし、インスタレーションといわれればそうなるし……売っている芋も作品で、食べてはる人も作品の一部であり、小さなカテゴリーではなく、もうちょっと大きい『社会彫刻』(現代美術家のヨーゼフ・ボイスが提唱した、彫刻を社会変革にまで拡張した概念のこと)と呼ばれるものに位置づけられるのかなと思います」
車体だけではなく、焼き芋も、それを食べる人も作品だという壮大なプロジェクト。彼らが挑む社会彫刻はつねに人々を驚かせ、そしておいしさ、よい香り、楽しさのパワーで、周囲の者たちを作品に巻き込み、作品そのものにしてしまう。たとえば、巨大こけしの「花子」(2011)もそのひとつ。