国際的な調査機関による、世界の国々にテロが起こる危険度を示す「世界テロ指数」というランキングがあります。その中でテロ指数のもっとも低い国のひとつが、シンガポール。周辺のASEAN諸国が高い指数を示している中、なぜシンガポールだけが低い値なのでしょうか? 毎日世界中を飛び回っている高城剛さんが、自身のメルマガ『高城未来研究所「Future Report」』にて、その理由を分析しています。
最もテロの影響を受けにくい国家・シンガポール
今週は、シンガポールにいます。
タイでは今年テロが続き、インドネシアやマレーシアでも次々とテロ計画が露呈している中、シンガポールには、その様相がありません。
このメールマガジンのQ&Aコーナーでも「安全な渡航先」をよく尋ねられますが、シンガポールはそのひとつのように思います。
ただ、シンガポールはイスラム国のテロ行為に対する攻撃軍に参加しています。
いわゆる敵対的なスタンスを明確化している上に、米国や近年の欧州同様、多くの移民が増えている国家です。
その上、シンガポールの実に人口の3人に1人が外国人で、日本の外国人総数が人口の60人に1人な状況を鑑みると、シンガポールは日本に比べ人口比で20倍も外国人が多いことになり、中東からの移民も数多くいる国家なのです。
しかし、テロ、および不穏な動きは、近隣の東南アジア諸国に比べ、圧倒的に少ない事実があります。
これは実に不思議なことで、シンガポール政府の外交の巧みさや国民の管理を徹底している表れだ、とよく言われています。
国際的な調査機関が様々なデータを用いて、世界の国々のテロ危険度を数値化した「世界テロ指数」によれば、昨年発表された最新統計では、シンガポールは世界で最もテロの影響を受けにくい国家に選ばれました。
この「世界テロ指数」トップ5をみますと、1位イラク、2位アフガニスタン、3位パキスタン、4位ナイジェリア、5位シリアと、テロや紛争がニュースを賑わす国が上位を占め、また、東南アジアの国々はそれなりに高順位で、フィリピン9位、タイ10位、インドネシア31位、ミャンマー35位、マレーシア48位となっているなか、シンガポールは最終順位の124位なのです。
この最終順位に並ぶのは、ニュージーランド、韓国、ベトナムで、これら同率4カ国が、もっともテロが少ない国家と指数では表れています。
シンガポール周辺のアセアン諸国が軒並みテロ危険度の高い上位にランクインしている中で、それらの国と国境を接していたり、気軽に行ける距離にあるシンガポールが、ランキングの最終順位である124位に留まっていることを考えると、シンガポールのテロ対策が際立っていることを示していると思われます。
ちなみに「世界テロ指数」によれば、27位イギリス、30位アメリカ、56位フランス、83位ドイツで、日本は121位となっています。
先月、シンガポールの首相リー・シェンロンは、オブザーバーとして出席したG20の際に、パリで起きたテロ事件はシンガポールでも起こりうるとし、心の準備するように、あらためて国民に促しました。
さらに、インドネシアには中部スラウェシ州北東沿岸部の主要港ポソで、ISISの戦闘予備員の訓練基地となる潜在性のある地域だと話しました。
その上リー首相は「もし彼らが小さな宿営地を設け、ISIS東南アジアとの呼称でも付ければ、テロリスト予備軍が集まる可能性がある」とも述べています。
最後にリー首相は、東南アジアからシンガポール人を含む700人余りがISISに加わるため中東に渡っていると、自戒の念を含め自ら発表しています。
また、テロ問題研究の権威でシンガポールにある「政治的暴力・テロリズム研究国際センター」によれば、アジアの戦闘員が中東から母国に帰還して活動を活発化する恐れがあるとし、アジアでのテロ発生に懸念を示しています。
宣伝効果が高いクリスマスの期間を狙ったテロ計画の危険性もあわせて指摘しました。
現実的には世界中どこも絶対安全とは言えませんが、シンガポールでは、首相自ら国民に危機意識を持つように問い、情報公開を適宜行っていることが伺えます。
実は、トップのこのような姿勢こそが、テロを未然に防ぎ、また例えテロが起きたとしても、冷静沈着に行動を即し、二次被害が拡大しないことの秘訣なのかもしれません。
Keep Calm and Carry On!
どんな時でもどんな場所でも、常に我を見失わないこと。
みなさま、何卒良いクリスマスを。
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