「私は声優の演技が嫌いなんです」
この言葉は、田中真弓氏が若かりしころにあるアニメ監督から言われた一言。確かに声優ではなく、俳優が演じているアニメは多々ありますよね。
そもそも、声優と俳優の演技の違いってなんなんだろう。
その理由について、女優として舞台に立ち続け、声優として『ONE PIECE』のルフィ役や『ドラゴンボール』のクリリン役などで活躍している田中真弓氏は、今回のインタビュー中で、声優も俳優も本質的には同じと話してくれました。
同じなのに、なぜ俳優を起用するの? どういうこと?
声優という職業はない
――本日はインタビューを受けていただきありがとうございます。「声優の演技が嫌い」の一言にはどういう意図があったのでしょうか。
田中真弓氏(以下田中):それは「型にはまっていて、個性や特色が見られない、類型的な、説明的な芝居はするなよ」と釘を刺されたのだと思いました。
――それは声優が類型的な、説明的な芝居になってしまっているということですか。
田中:若い声優さんたちは特にそうなってきて、それがうまくなってきてしまっている。それはそれで凄いことなんですけど、でもその人は、もっと上手い人が出てきたらとって変わられてしまう。声優という職業は、そうではないんだというところに気づかなければならないと私は思います。
――そうではないと言いますと。
田中:声優は、俳優の中の仕事のひとつと捉える。俳優という職業と全く別個に声優という職業があると思っている人が多いので、声優は俳優で、たまたま声だけがもってかれたという形が本来は望ましいですね。
田中:図で説明すると、俳優という中に、声優は完全に入ります。そしてナレーターやアナウンサーとだぶる部分もあります。重なっていないのは、とても正確さが求められる仕事。俳優としてナレーションをする場合は、イントネーションの違いなどの個性がOKになる。人間を表現するものだから、キレイすぎる人だけだと変ですよね。そして歌もそう。俳優が歌う歌は、ピッチや音が外れていても、気持ちが伝わることを第一義に考える。
――なぜ声優の演技が記号的になってきてしまったのでしょうか。
田中:アニメーションは、3〜4時間くらいで録らなきゃいけないから、時間の制約があるんです。舞台だったら1ケ月みっちり稽古できますが、声優の仕事は台本をもらって3〜4時間で全部を仕上げるわけだから、掘り下げるよりはわかりやすいお芝居が望まれているわけですよ。
でも現実、そんなにわかりやすいことってないですよね。例えば酔っぱらいならば、酔っていくと冷静になっていく人もいるし、ろれつが回らなくなる人もいる。しかしアニメーションでは、酔っぱらいらしい、わかりやすい芝居を求められるので、それには応えられなきゃいけない。だけどそこで止まっていたら、そんな人はいないよっていうくらい記号的なお芝居になってしまうじゃないですか。なので、声優として望ましいのは、舞台と同じくらい時間をかけて役を掘り下げて演じることですね。
声優ではなく、俳優を起用する理由とは?
――声優として生き残るためにも、役の掘り下げなどをやっていかなければいけないということですか。
田中:私はそこだと信じたいですね。役に向き合って、もしこうだったらどうだろうとか、考えて演技をしてきた人と、記号的な演技をしてきた人では違うと思うんです。それが声優として生き残っていく、歳を取っても役をもらえるというのは、そこに光が絶対あるはずなんですよ。
――言い方は悪いですが、薄い演技では生き残れないということですよね。
田中:私の場合、舞台中は収録に穴を開けることが多い。声優だけやってる人の方が穴を開けないじゃないですか。それでもお前が必要だって言われる役者になればいいわけですよね。でも、その薄いお芝居を求められる業界でもあるのかもしれない。完全にそうなったら、それはそれで仕方がない。
俳優を使いたいと思うのはそこじゃないですか。我々声優の癖を嫌がるっていうのは、類型の芝居だからですよ。どうしてもそれっぽい芝居、声がひらひらしちゃうんです。生きている人間をやろうとしないで、わかりやすいお芝居、説明的な演技ですね。
しかし声優として、それはそれで出来ないといけないんです。仕事としては。だけどそこで止まっていたら、若くて安い人がいいじゃないですか。でもそれを越えていかなきゃならないときには、自分の肉体を通しての演技をやっていないと、そういうことは考えられないんですよ。考えなくていいと思ってしまう。
――そこに気づくためにはどうしたら良いのでしょうか。
田中:自分で必要と感じたり、そうあらねばならぬと思っている人は何人かいますね。草尾毅(『SLAM DUNK』桜木花道など)とか。肉体を使って演じないとだめなんだなと。若い子たちには、そう講義で教えています。
――講義というと、田中さんが特別講師を努めていらっしゃる東京ダンス&アクターズ専門学校でですか。
田中:そうです。初めての講義では必ず教えますよ。この前も学生に将来どうなりたいかを聞いた時に、「ガンダム声優になりたい」と答えた子がいたので、それは俳優だよと、説明しました。
若くて安いうちだけ使われるというのでOKならそれでいい。だから、いわゆるアイドル声優っていうのは私には意味がわからないんだけど、アイドル=若いということですよね。思い出でいいならばそれはそれでいい。そうじゃないならば、アイドル声優をやれてるうちに、自分の50〜60歳を想像できないとダメですよね。声優をやっていたいならば、何かを露出したいと考えるならば、想像力は必要ですよね。なのでしっかりそこは教えています。
また、東京ダンス&アクターズ専門学校では、横滑りができるじゃないですか。声優コースに入って、本当にやりたいのはこれじゃないと思った時に、歌手やナレーター、アクションと横滑りできるのもいいですね。
田中:人間、好奇心が一番強い人が勝つと思うんです。これしかないって思ってしまうと、他のことは目に入らない。でも好奇心のある人は他にも興味を示す。真面目な人だと狭くなってしまう。
自分が表現したいと思うものにふさわしいのは声優だけじゃないかもしれない。いろんなカリキュラムの授業があるから、たくさんの発見があるかもしれない。だから生徒たちには好奇心を大切にしてほしいですね。
――本日はありがとうございました。声優と俳優には違いはないけれど、声優の演技が記号的、説明的になってしまっているということだったんですね。
声優としてでなく俳優として長く活躍するために
声優は俳優であり、好奇心をもってたくさんの体験を積み上げていくことによって、長く続けられる職業となる、と田中氏は話してくれました。
東京ダンス&アクターズ専門学校では、Wメジャーカリキュラムと銘打って、入学したコースにしばられず、ダンスや俳優、音楽と違うコースのカリキュラムの受講が可能。これにより生徒は、力や個性を伸ばすことができ、適正を見極めることができるようになっているのです。
そして、夢のサポートのために、実際にそれぞれの現場で活躍しているプロから直接学ぶことができる機会も豊富です。声優・俳優なら田中真弓氏や『DRAGON BALL Z』のべジータ役などを演じている堀川りょう氏。楽曲ならKAT-TUNや土屋アンナなどのアーティストに楽曲を提供しているジョーイ・カルボーン氏や、元プリンセス・プリンセスのリーダー兼ベーシスト渡辺敦子氏から講義を受けることができます。
仕事として長く活躍するために、声優や俳優、歌手を目指すならば、これらのプロが感じた必要な下地を身につけることができる東京ダンス&アクターズ専門学校で学んでみてはいかがでしょう。そして進路に悩む親御さんも、プロたちに2年間を託してみてもよいのではないでしょうか。