ロシア機撃墜は、トルコが石油利権を守るためだった

 

IS撃滅への道筋

本誌が繰り返し述べてきたように、ISを壊滅させるには、シリアにおいてはシリア政府軍を、イラクにおいてはイラク政府軍とクルド族民兵を地上戦の前面に押し立てて、それをイランの革命防衛隊やレバノンのヒズボラなど戦闘能力の高い部隊で後押しし、それに米露などの特殊部隊が随伴して情報収集や作戦立案を補助し、その上で米仏露などの空爆で支援するという重層的な配置を取る必要がある。なぜなら、IS部隊を軍事力で打ち負かすことだけでなく、奪回したIS支配地域で治安と社会の秩序を立て直し経済と生活の再建に着手なければならず、それには残存する部族勢力と和解しその協力を求めていく政治力や、その秩序を維持していく行政管理能力が不可欠だからである。米国には、ブッシュ弟などのように、今も「米国が本格的に地上軍を送るべきだ」という馬鹿な議論があるが、彼はブッシュ兄がイラクの国家と社会を破壊しただけで何ら後始末ができなかったことがISを生み出したという歴史の教訓が何も分かっていない。

ロシアはすでにシリア政府軍をロシアの特殊部隊でバックアップするという形をとりつつある。今回の撃墜事件でパラシュートで脱出した2人のパイロットのうち生き残った1人は、「ロシアとシリア政府軍の特殊部隊の約12時間かけた徹夜の作戦」で救出された。しかしその作戦中に「ヘリが過激主義者に銃撃されて損傷しロシア海軍歩兵1人が死亡した」(ロシアNOW 11月25日付)。ということは、アレッポ奪回に向かっているシリア政府軍には相当に練度の高いロシアの特殊部隊や海軍歩兵(米国の海兵隊に当たる)部隊が随伴していることを示す。

米国やトルコは、未だに反体制派をISに立ち向かわせようとしているが、彼らはそもそもISと戦う意志が薄い上に、十分な戦闘力を持ち合わせず、また仮にIS支配地域を奪回してもそこで秩序回復を成し遂げる政治力も行政能力もない。全く無駄な努力である。

幸いにして、米国がロシアに同調して石油施設爆撃に踏み切り、フランスの仲介もあってロシアのシリア北部爆撃の意味もようやく理解するようになって、事態はロシアのペースで推移しつつある。ここで米国はじめ有志連合が思い切って「アサド打倒が先決」「そのための反体制派支援」という誤った戦略方針から決別しないと、IS壊滅は適わず、今回の撃墜事件のような無意味な混乱と犠牲を生み、米本国を含む凄惨なテロの拡散が広がるばかりである。

image by: Valentina Petrov / Shutterstock.com

 

『高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋

著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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