ロシア機撃墜は、トルコが石油利権を守るためだった

 

ロシアの至極真っ当な戦略提案

このトルコのややこしくも小賢しい思惑をブチ壊したのが、ロシアの軍事介入である。

ロシアは一貫して、米欧などの有志連合がアサドを主敵とする戦略を少なくとも一時は棚上げにして、正統な主権国家の代表であり国連加盟国でもあるシリア政府との和解に基づく合意と許可の下、(この紛争の当事者としてはほとんど唯一まともな軍隊と言える)シリア政府軍を地上戦の前面に押し立てて、対IS壊滅作戦に全力を集中すべきであるという、至極真っ当な戦略を提案し続けた。しかし、9月の国連総会とその機会を捉えた露米首脳会談ではオバマの決断するところとならず、その2日後にロシアは単独での対IS空爆に踏み切った。

しかしロシアは周到極まりなく、空爆に踏み切りはしたものの有志連合を代表する米国との間で空爆のための空域管理についてルールを確認して自軍の飛行ルートも事前通告するなど、無用な事故を防止する措置をとると共に、(ここが肝心なところだが!)あくまでシリア政府軍の要衝アレッボ奪回を目指す地上作戦と連動させて空爆を行った。

すると、何が起きたかというと、これは詳細な情報がないのであくまで推測にすぎないが、クルド人とトルクメン人及びアルカイーダ系の反体制勢力が混在する国境西部一帯では、シリア政府軍の進撃にトルクメン人及びアルカイーダ系の武装勢力が抵抗し、それに対してロシア軍機が空爆を以てシリア軍を支援した。それが、西側報道で「ロシアはISを攻撃しないで反アサドの反体制勢力を空爆している」と言われていることの実相である。

それに対してトルコは苛立ち、「我々の親戚であるトルクメン人を爆撃するとは何事か」という思いを募らせた。それで、おそらくトルコのエルドアン大統領は「もし明白な領空侵犯があって大義名分が立つならロシア機を撃ち落としても構わない」という命令を下していたのではないか。IS壊滅よりもシリアン・トルクメン勢力の擁護とクルド人支配地域の拡大防止を優先するという戦略的な錯乱である。

print
いま読まれてます

  • ロシア機撃墜は、トルコが石油利権を守るためだった
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け