ビルの一階や駅構内などで、よく見かける「送水口」という施設。見たことはあるけど、「その用途は?」と聞かれると、答えられる人は少ないのではないでしょうか。「そもそも送水口って何? どこが魅力的なの?」という方のために、大の送水口好きという日吉みわさんが、11月21日にオープンしたばかりという日本初の「送水口博物館」を取材してくれました。ニッチで奥が深い、送水口の世界をどうぞご堪能あれ。
もしかして世界初?
日本初、もしかしたら世界初かもしれないものが新橋にオープンした。それが「送水口博物館」だ。
送水口って?
そもそも、送水口って何だろう?
街中で見掛けるこんなもの。これが「連結送水管送水口」。消防活動上必要な施設だ。
連結送水管はビルの高層階や駅構内や地下街など、消防車での消火が不可能なときに必要な施設。送水口から水を送り込み、内部の配管を通して高層階に水を届ける。
消防士はホースだけを担いで火元近くまで行き、送水口からの水の出口である「放水口」にホースを繋いで消火活動を行うのだ。連結送水管は7階建て以上のビルまたは5階建て以上の広い建物、消防車が入ることの出来ない駅や地下街にも設置される。
なるほど。しかし、送水口の博物館とは? 送水口にはどんな博物的価値があるんだろう。さっそく取材を申し込み、オープン前の送水口博物館へお邪魔してきた。
送水口から時代が見える
取材に応じてくださったのは、送水口博物館の館長である村上善一さん。送水口を製作してきた老舗、村上製作所の社長さんだ。
―送水口の博物的価値とは、どんなところにあるのでしょう
村上さん:「日本に導入された当時の送水口は、海外から輸入したものをそのまま設置していました。それから輸入品を日本仕様にしたり、日本独自に製作したりと工夫が加えられていきます。プレートの表示も英語表記から片仮名表記に、そして漢字表記に変化。材質も真鍮からステンレスに変化していきます」
村上さん:「ビルが解体されるとき、建物の瓦礫と一緒に送水口も廃棄されてしまいます。英語表記、片仮名表記などのオールドタイプ送水口は、現在はまだ見ることができるものの今後どんどんなくなっていく運命のもの。貴重な資料として保存し、皆さまに見て頂きたいと思っています」
―送水口博物館を作ろうと思ったきっかけは
村上さん:「去年の5月くらいかな、送水口愛好家の方々から連絡があったんです。そんな人達がいるんだと驚き、うちのビルに呼んで、スライドや部品をお見せして全力でおもてなしをしました。その翌日に、オールドタイプの送水口が設置されていた旧電池ビルが解体のために仮囲いされている現場に出くわしたんです。運命的ですよね。この送水口を外して保存すると言ったら、送水口ファンの皆さんが喜ぶだろうな、そんな気持ちがきっかけでした」
村上さんがおっしゃるように、送水口はビルの解体とともに崩されて、そのまま廃棄されるのが一般的。解体前に取り外す、ということはほとんどなく、取り外しには苦労したという。
村上さん:「送水口はネジのように回して取り外すんだけど、築何十年と経っていると回らなくてね。建材で枠を作って送水口を挟んで回してみたり、苦労の連続でした」
救出活動を続けるうち「これは送水口博物館をつくらないといけないな」と思うようになった。そこで、もともと自社ビルの屋上にあった小屋を改装し、送水口博物館としてオープンしたという。
村上さん:「元々あった壁をぶち抜いて、入りやすいサッシにしたり、壁板を張ったりペンキを塗ったり…ほぼ一人でやりました」
発案したのが2015年6月ごろ。わずか5ヶ月で作り上げたそうだ。
―送水口博物館の見どころを教えてください。
村上さん:「展示パネルの材質や高さなど、ビルに設置されていた様子を可能な限り再現しています。展示物に触ってもいい、というのも大きな特徴ですね」
私が取材している間にも、入れ代わり立ち代わり人が訪れ、色々な作業をして去っていく。たくさんの人たちに愛されている博物館だ。
―将来的にはどんなことをしていきたいですか。
村上さん:「これからもっと展示品が増える予定です。増えたら、季節展示や特別展示をやりたいですね。送水口の重要性やオールドタイプの価値を知ってもらい、送水口に親しんでもらえるよう活動していきたいと思っています」
―村上さん、ありがとうございました。
送水口博物館に行こう!
送水口博物館
同博物館は、村上製作所ビルの5F屋上にある。開館日は公式サイトでチェックしよう。
http://www.zentech.co.jp/museum/index.html
来館希望者は5Fの屋上まで直接来てください、とのこと。入館は無料。
送水口ナイト実行委員会
送水口ファンが運営するFacebookページもある。送水口博物館開館に伴い、11月28日にイベントが行われる。
https://www.facebook.com/standpipenight
文/日吉みわ