最近、日本を代表する家電ブランドなどが、元気がないです。これは、もっぱら変なプライドをもってしまっているからではないでしょうか? 自分ブランドを消す大切さについて、ビジネスの種を見つけるために、経営者・マーケティング担当者は必読のメルマガ『ビシネス発想源』で触れています。
自分ブランドを消す
1949年、東京都中野区の煎餅屋に生まれた小宮山文男氏は、学生時代にヨーロッパをヒッチハイクで回った。
ドイツで、当地の有名コーヒーチェーン店の「チボー」に入店した時のこと。
ヒッピーの自分のような貧しそうな格好をしてコーヒーを飲んでいる人がいて、ドイツ語だから何を言っているのか分からないけど「おいでよ」とコーヒーをおごってくれた。
チボーにはコミュニティがあると感じた小宮山氏は、「人の心が豊かになるものって、こういう存在だな」ということがその後もとても印象に残っていた。
帰国した頃、中野の煎餅屋であった父は、日本橋に喫茶店の第1号を始めたことを皮切りに都心を中心に喫茶店事業を展開しており、小宮山氏はその運営会社・銀座ルノアールに就職する。
「喫茶室ルノアール」は瞬く間に店舗が増えていったが、バブルがはじけた時に、一気に窮地に陥った。
サラリーマンの1日の小遣いが一気に500円に落ち込み、世の中では280円の牛丼をはじめ、ワンコインランチが当たり前になってきたが、ルノアールのコーヒーは牛丼よりも高かった。
だが、創業者の社長は「下手なことをするな、同じことをやり続けることが王道だ」という考え方で、中身を全く変えなかった。
そのうちに、スターバックスやドトールのように立ち飲み珈琲店が一気に勢いをつけていき、昼食に牛丼などを食べてコーヒーを飲もうと思ったらドトールや缶コーヒーに流れていくことになる。
小宮山氏は、「今こそチボーのようなことをする時期だ」と社長の父に提案したが、「何もしないことが王道だ」と変化を好まない社長は却下し続けてきた。
しかし、バブルがはじけ、消費税が導入されても、中身が変わらないことで、お店は古くなり、従業員も年を取り、お客様も年を取ってきて、会社員だったお客様もリタイアして減っていき、ついに3期連続赤字で会社は潰れかけてしまう。
そこで小宮山氏は諦めずに新業態を提案していると、「分かった。でもうちの店で一番業績の悪い店でやれ」という制約を、社長から課せられた。
その店とは高田馬場一丁目店で、当時は高田馬場にルノアールが6店舗もあったので、立ち飲みコーヒーもファーストフードもあるのに、狭い地域の中で6店舗の自社競合になっていたのである。
そこで、ビジネスマンや35歳以上のお客様を対象にしていた「喫茶室ルノアール」とは全く逆の、若者を対象にした「NEW YORKER’S CAFE」を始めた。
すると、周辺の早稲田大学や学習院女子大学の学生がどっと来るようになり、ルノアールの自社競合も解消、銀座ルノアールの窮地を救うことになった。
新業態を成功させた小宮山文男氏は、2002年に同社の常務へ、そして2003年に2代目の代表取締役社長に就任した。
その後も銀座ルノアールは、新業態のカフェや貸会議室事業など、時代に合わせて広く展開をし続けている。
成功した「NEW YORKER’S CAFE」を始めるにあたり、小宮山氏が社内で徹底したことは、
「ルノアールの名前を一切使うな」
ということだった。
ブランド名だからつけたほうがいいとい言われても、「絶対つけたらダメだよ」と言い続けた。
当時ルノアールは若いお客様から見ると「入るとなんかタバコの匂いがするし、寝ている人もいるオジン喫茶だ」
と思われるイメージがあって、そのイメージでカフェをやったたおころで、若い人が来るわけないだろうと考えたのである。
▼出典は、最近読んだこの電子書籍です。
小宮山社長をはじめ、喫茶室ルノアールのファンである
経営者やクリエイターにインタビューした異色本。
ブランド名というのは、その名前を使えばパワーが利用できる利点と同時に、その名前のイメージに縛られてしまってそこから抜け出せないというデメリットもあります。
自分のブランドに自信を持っている人ほど、このデメリットを理解できなくて、新しい事業に挑戦をしようと思っても、「今まで培ったこのブランド名を有効活用しよう!」と考えて、今までと同じイメージに流されます。
これまでとは全く異なる新しい挑戦には、既存のイメージをごっそり捨てる覚悟が必要です。
これは、企業の事業だけではなくて、一人の人間にも言えることです。
例えば、何か新しい世界に一から飛び込むと、
「俺は有名な一流大学を卒業してるんだ」
「俺は有名企業の出身なんだ」
といった自分の過去の誇りが、実はものすごく邪魔になってくる時があります。
自分からその挑戦すべき仕事に寄るのではなく、「これが、一流大学を出た俺のする仕事だろうか?」などと、仕事を自分のブランドに寄せようとする。
そんな捨てきれない自分ブランドに縛られて、新しい挑戦も全く新しくないものになり、飛び出すべき場所にも飛べ出せなくなるのです。
自分ブランドを捨ててみる、消し去ってみる、という覚悟は、新たな挑戦にはとても大事なことなのです。
【今日の発想源実践】(実践期限:1日間)———-
・自社の業界・業態とほご同じという条件で「自社が携わっていないように見える新事業」を考えてみる。簡単な事業企画案をノートにまとめ、現在の自社と何が全く違うのかを重点的に考える。
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