2015年1月にスタートした相続税増税を機に注目を集めている「孫養子」をご存知ですか? ビートたけしさんも使っているというこの相続の裏ワザについて、『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』の著者で元国税調査官主の大村大次郎さんが詳しく解説しています。
ビートたけしがやっていた相続税の裏ワザ
今回は相続税の裏ワザの話です。前号でも紹介した9月12日の朝日新聞の記事には次のような記述があります。
孫を養子に
遺産をもらった家族らにかかる相続税を節税する動きも盛んだ。都内の30代の男性は3年前、他界した祖父の遺産5億円を1人ですべて相続した。通常ならば孫は法定相続人になれないが、祖父の強い意向で「養子」になっていたのだ。
祖父の法定相続人は配偶者の祖母と、実子の娘2人だったが、全員の同意のもとであえて孫に遺産を集中させた。家を継げる男性が孫以外にいなかったこともあるが、相続税を減らす狙いもあった。
祖母や娘を経由して孫に遺産が相続されると、相続税も複数回納めなくてはならないが、祖父から養子への相続なら1回の納税で済む。「孫養子」と呼ばれる手法で、この男性のケースでは約1億3千万円の節税が見込まれるという。孫養子は土地長者が増えたバブル期に増えたとされるが、税理士らによると、今年の相続増税を機に再び広がっているという。
だが、このやり方にはリスクもある。親族間の同意がないまま孫養子に遺産相続が集中すれば、別の遺族の遺産の取り分が減り、トラブルに発展しかねないからだ。税理士の紹介会社ビスカスの八木美代子代表は「99%の相続が『争続』になる。過去の負の記憶を持ち出したり、配偶者が横やりを入れたりして、感情のもつれが解消しないことが要因」といい、時間をかけた対策を勧める。
筆者による解説
この記事では、孫を養子にすることで、節税をしているということですが、まず、なぜ孫を養子にすれば、節税になるのか、ということをご説明しましょう。
相続税というのは、「法定相続人」の数が大きな役割を果たします。というのは、相続税の基礎控除は「法定相続人×600万円+3,000万円」という算式で求められます。もし、法定相続人が2人だった場合は、「2人×600万円+3,000万円」となり、合計で4,200万円です。つまり、4,200万円までの相続財産には相続税はかからないということです。
この算式を見ればわかるように法定相続人が多い程、相続税の基礎控除額は多くなります。つまり、法定相続人が多ければ多い程、相続税がかからないで済む額が増えるということです。
そして、相続税というのは、遺産の額が多ければ多いほど税率が上がる「累進課税」になっています。が、遺族が相続した遺産全体にかかってくるものではなく、遺産をもらった遺族ひとりひとりに対して、そのもらった遺産の額に応じてかかってくるものです。だから、なるべく多くの法定相続人に遺産を分散して、ひとりひとりのもらう額を減らしておけば、相続税を低く抑えることができるのです。
法定相続人というのは、基本的に「配偶者」と「子供」となっています。つまりは、夫婦と親子ですね。だから、妻と子供を残して死んだ場合は、妻と子供が法定相続人となります。子供がいない場合は、両親も法定相続人になり、子供も両親もいない場合は、兄弟姉妹も法定相続人になります。なので、基本的には、孫は法定相続人にはなれないのです。