東芝が、米原発の赤字を隠蔽していたという日経ビジネスのスクープが波紋を呼んでいます。この件について、世界的エンジニアでメルマガ『週刊 Life is beautiful』の著者・中島聡さんは、すでに東芝が子会社の原発設備会社WH社株の売却で難航していることを指摘していました。その中島さんが、最近目に止まった記事として、東芝に関連した2つの記事を紹介。これだけの不正会計を長きに渡って見逃してきた監査法人の責任の重さについて言及し、さらに家電を捨てて原発事業に集中するという今後の方針について疑問を投げかけています。
私の目に止まった記事
●会計基準が東芝をおかしくした(日経ビジネスONLINE)
少し扇情的なタイトルで、まるで日本の会計基準が悪いかのように解釈できますが、そんなことはありません。会計基準としてどんなルールを定めたところで、どうしても「経営者の裁量」に任される部分は残るため、東芝のような不正会計を会計基準だけで防止するのはとても困難です。
東芝のケースで言えば、経営陣も非難されるべきですが(ライブドア事件よりも悪質なので、実刑判決を受けてしかるべき話です)、監査法人の罪は重いと思います。
株式を上場させている公開企業には、会社の経営状況を財務情報を通じて株主に伝える責任を持っていますが、その財務情報が単に会計基準に則っているだけでなく、経営者の裁量により株主に誤解を与えるようなことをしていないかどうかをチェックするのが監査法人の仕事です。
その意味では、今回の不正会計を複数年度に渡って見逃してきた監査法人の責任は重く、米国であれば業務停止命令を受けても仕方がないような話です。
●東芝、テレビ・パソコン・白物家電の3部門分離へ他社と交渉-半導体と電力で経営再建(日刊工業新聞)
同じく東芝に関する記事ですが、粉飾が発覚した結果、このままだと経営危機に陥りかねない東芝が、好調な半導体と電力(原子力)に集中するために、テレビ・パソコン・白物家電の3部門を分離・売却する、という話です。
パソコン事業はもっと早いタイミングで売却すべきだったと思いますが、テレビ部門は良いものを作っているし(私自身もレコーダは東芝のものを使っています)、パナソニックと並んで日本の白物家電ビジネスを支えて来た東芝ブランドが家電業界から消えてしまうというのは何とももったいなく感じます。
何とか再建をしなければならない経営陣としては仕方がない判断なのでしょうが、今後の柱の一つが電力で、そこにこれからどうなるか分からない原子力が大きな比重を持って含まれている、という点が大きなリスクのように私には思えます。
安倍政権がODAの名目で海外でお金をばらまき、そのお金で日本製の原発を買わせる、という政策を続けられる限り東芝の原発事業は安泰、という見方もあるでしょうが、そんな「タコが自分の足を食べる」ような行動がいつまでも続けられるわけがありません。
原発事業が行き詰まるとウェスティングハウス社を買収した際に計上した数千億円の「のれん代」を償却しなければならなくなり、それだけで一気に債務超過になりかねません。
今回の再建計画がたとえ成功したとしても、原発事業という時限爆弾を抱えている限りはリスクは無くなりません。
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著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。