『半沢直樹』の堺雅人、『あまちゃん』の大人計画など、テレビドラマのヒットの要因のひとつに、舞台出身の役者たちがあげられます。そして今年も、『エンジェル・ハート』の主人公の冴羽リョウを演じる、舞台出身・上川隆也の役作りが話題を呼んでいます。
そんなドラマに必要不可欠の存在になっている舞台俳優はなぜ重宝されているのでしょうか。そしてテレビ出身の役者と舞台出身の役者、その違いはどこにあるのでしょうか。
今回、30年以上演劇の第一線で活躍されている演劇集団キャラメルボックスの脚本・演出を手掛ける成井豊氏にお話をうかがいました。キャラメルボックスは、上川隆也もかつて在籍していた人気劇団です。
テレビ出身と舞台出身の役者の差とは?
―最近のテレビドラマで活躍されている役者さんに舞台出身の役者さんが多いように感じます。テレビ出身と舞台出身の役者さんの違いを教えていただけますでしょうか。
成井豊氏(以下成井):鍛えられているという一言に尽きると思いますね。演劇って、一本のお芝居をするのにひと月は稽古をするじゃないですか。ドラマのワンカットって2、3回で撮っちゃうわけですからね。
演技の練り込み方、役作りの仕方が、映像と演劇では全然違うわけで、なので演技の初心者、役者志望の人は、まず舞台でじっくり技術を磨かないと。それが日本以外では当たり前なんです。
―かける時間の差があるんですね。
成井:テレビのプロデューサー、ディレクターから聞きましたが、「映像出身の役者というのは指示出しをしないとやってくれないけど、演劇出身の役者はどんどん自分で作るし、他の役者と相談して芝居をつくっていってくれるからありがたい。だからつい舞台役者を呼んでしまう」と言っていましたね。
こういう話が出るくらい、映像演技と舞台演技には違いがあるんです。
―かつて所属されていた上川隆也さんはどうでしたか。
成井:入団したときから上手かったですよ。30年以上劇団で数多くの役者を見てきましたが、5本の指に入るでしょうね。彼は元々は内向的で人見知りの激しい人だったんですよ。そんなシャイな彼に、「大丈夫。君は面白いから堂々とやっていんだよ」とわからせるための指導をしたくらいです。心構えの指導ですね。でもここが一番大切な部分ですからね。
日米にも差が。芝居の基礎から違う!?
―ところで、日本のテレビ出身と演劇出身の違いを教えていただきましたが、アメリカではどうなんでしょうか。
成井:基礎の部分から違いますよね。単純にアメリカの役者は演劇からスタートすることが当たり前となっています。日本の場合は、セリフ回し、表情を作ることが演技だと思っている人が多くて、演技の基礎の部分から違うと思うんです。
なぜこんなに差がついたかと言えば、アメリカでは演技の基礎が行き渡るだけの文化的な下地があるってことだと思います。あらゆる演劇がニューヨークで観られて、各地方都市で巡回公演なんかも行われていて、とびきり面白いものをいつでも観られるという環境がアメリカにはある。
日本は不景気もあって東京で作られたお芝居が地方を回らなくなっちゃって、だから地方の人たちが一級の演劇を観る機会がどんどん減っていますよね。逆に言うと東京では今、歴史上でも珍しいくらいおもしろいお芝居が盛んに作られているんだけど、東京に来ないと観られない。その差だと思いますよ。
—なるほど。日常的に演劇に触れる機会が多いということなんですね。
成井:そうですね。市民劇団も各都市にあるし、学校教育にも演劇が取り入れられている。欧米では、小学校に入ったらすぐスピーチをやらされるじゃないですか、あれも演劇の一種ですから。子供の頃から演劇の素養を身につけているんですよ。
教育の現場に取り入れられつつある演劇
—演劇と教育が関係があるなんて驚きです。
成井:演劇って、舞台上でのコミュニケーションを行うことを見せる芸術だから、コミュニケーションの困難さが注目されている現代、いろんなことで苦しんでいる人たちが演劇に興味を持つのは必然だと思います。
現に、総合的な学習の時間に演劇人が呼ばれて、シアターゲームをやったりということが始まっています。中野区全体で総合の時間に演劇を取り入れる、などといった地方公共団体が増えて来ていますからね。また、東京都立総合芸術高校、埼玉県立芸術総合高等学校など、演劇も学ぶ公立の高校も出てきているのが良い例じゃないでしょうか。
—教育に演劇をというのは世界ではもう行われているのでしょうか。
成井:ヨーロッパやアメリカでは、小学校から演劇をやるのは当たり前。医学部の学生が、大学で医学の授業の他に演劇の授業もとる。患者とコミュニケーションしなくてはいけないから学ぶのは当たり前のこと。という風に、人と関わる職業をするときに演劇を学んでおくというのは常識なんです。
—具体的にどうやって演劇を学ぶのですか?
成井:シアターゲームという演劇的なゲームや、感情開放という内側に隠している感情をさらけ出すレッスンなどですね。
こうしたレッスンは役者も行いますが、演劇に関係ない人にも重要なんです。コミュニケーション能力、空気を読むという能力が非常に求められる時代なのに、子供たちのこうした能力はむしろ下がっている。という所で、小学校の先生たちが演劇が重要ということを、今まさに実感なさっていると思います。ですがそれを教えるすべがない。そこで演劇人が呼ばれているんですよ。
—成井さんが次回手がけられる公演のひとつに、東京フィルムセンター映画・俳優専門学校のスペシャル公演がありますが、これも教育の観点から行っているのでしょうか。
成井:そうですね。芝居を通して演劇とは、人間とは、社会とはなにかというのを、一方的に押し付けるのではなく、学生たちとコミュニケーションしながら伝えられたらいいなと。それに自分自身が面白いからというのもありますよ。
—面白いというのは、具体的にどういった所でしょうか。
成井:ものすごい意欲を感じるんですよ。上手くなりたい、面白い芝居が作りたいという強い意欲を持っているからこそ、教えがいもあり、真剣にやらないとと思うわけで。すごく楽しく、やりがいを感じています。
そして、年々スペシャル公演が、自分の目から見て面白くなっているんです。これはすごいことで、今年は失敗、去年の方が良かったな、なんてことが今のところない。稽古の質も上がっているし。役者1人1人のスキルも上がっている。それはこの学校が急成長している時代で、そこに関われている楽しさがあります。学校のカリキュラムのレベルアップなどを、稽古で肌で感じられる。それが面白いですね。
—学生たちが真剣であるからこそ、成井さんも本気でぶつからないといけないということですね。本日はありがとうございました。公演楽しみにしております。
キャラメルボックスの代表作を成井豊が本気指導
そんな成井豊氏の作・演出の舞台が11月28日(土)・29日(日)・30日(月)に、東京・西葛西の東京フィルムセンター映画・俳優専門学校にて行われます。しかも入場料はなんと無料。
演目は、『カレッジ・オブ・ザ・ウィンド』。
家族全員を一度に失ってしまった短大生・ほしみ。しかし失った5人の家族が幽霊になって、入院しているほしみのそばにいるが、その姿はほしみにしか見えない。そこに警察に追われている叔父の鉄平が転がり込んできたが、その鉄平も……。
これはキャラメルボックス初期の代表作であり、その後を決定づけた作品。
この記念すべき作品を、本気の学生たちに本気の成井氏が指導。しかも毎年良くなっているという成井氏のお墨付きの舞台。きっと心が揺さぶられるような演劇を体感できることでしょう。
ぜひ観に行って、舞台の熱、感動、興奮を生で感じてみてはいかがでしょうか。
PR:東京フィルムセンター映画・俳優専門学校