これまで従来型のビジネスモデルを守ってきた自動車業界。しかし世界的ソフトエンジニアの中島聡さんはご自身のメルマガで「10年以内に大きな変化を遂げることは確実」、さらにその先には「自動車のインフラ化」の時代が来ると予言しています。
来るべき自動車産業の変化
最初は、下のコーナー向けに Tim Cook: The car industry is in for a ‘massive change’ という記事に関する簡単なコメントを書き始めたのですが、私が創業した UIEvolution も、自動車産業にソフトウェアを提供する事業をしているので大いに関係する話で、あまりにも言いたいことが沢山あるので、ここで一度まとめて書いておきたいと思います。
1990年代から2000年代にかけて起こったソフトウェア+インターネット革命は、家電、通信、出版、音楽、小売などの複数の業界にまたがって大きな影響を与えて来ましたが、自動車産業はその変化から比較的免れることが出来ていました。
従来型のガソリンで走る自動車が構造的に非常に複雑なため、部品メーカーを傘下に置いた垂直統合型ビジネスでしか規模の経済が働かず、新規参入を難しくして来た、というのが一番の原因です。
消費者が地元のディーラーから購入し、その後はディーラーはメンテナンスで儲けるというビジネスモデルも、(Amazonにより駆逐されてしまった書店などと違って)自動車産業がインターネットのもたらす過酷な競争から免れることが出来た理由の1つです。
しかし、ここに来て、3つの変化が自動車産業に大きな「進化圧」をかけています。
1つ目は、電気自動車です。電気自動車といえば、「排ガスやCO2を出さないエコカー」というイメージが先行していますが、注目すべきなのは、それがもたらすだろう業界構造そのもの変化です。部品数がガソリン車よりも少なく、部品の標準化が可能な電気自動車は、業界全体を、これまでの垂直統合型ビジネスから、パソコン業界のような水平分散型ビジネスへとシフトさせます。
つまり、「電池」や「モーター」や「電源コントローラ」などの部品を専門に作る企業数社がグローバルな市場で寡占状態を作って戦い、電気自動車のメーカーはその手の部品を調達して組み立てて販売するという役割に徹する、という世界が来るのです。Tesla Motorsが莫大な資金を投入して、リチウムイオン電池のギガファクトリーを作るのも、そんな時代を見据えての投資なのです。
また、メンテナンスがほとんど不要な電気自動車の場合、ディーラーの存在価値が大幅に下がるので、Tesla Motorsがやっているようにオンラインでメーカーが直売することが理にかなっているのです。
ディーラーにとってみれば、電気自動車を販売したところで、後々のサービスビジネスに繋がらないのでガソリン車の方を売ろうというインセンティブが働いてしまうのです。そのため、既存の自動車メーカーがいくら電気自動車を開発しても、ディーラーネットワークに頼って販売している限りは、急速なシフトは望めないのです。
Tesla Motorsが直売で成功していることを今は横目で見ている既存の自動車メーカーの経営陣が、「うちの会社も電気自動車だけは、オンラインで直売するしかない」という痛みを伴う改革を決断する日も遠くないと私は見ています。
つまり、電気自動車は「垂直統合型の自動車メーカーとディーラーネットワーク」というビジネスモデルそのものを破壊する可能性を持っているのです。