自分の立場も面子もどうでもいい
ある日の午前中、松下さんの執務室で私は、「なあ江口君、今度、○○ということをやろうと思うんやけど、君はどう思う?」と尋ねられた。すばらしいアイデアだと思ったので、私は「それはいいですね」と答えた。
するとその日の午後、松下電器のある役員が松下幸之助さんのところへ来て、「今度、○○ということをやりたいと思うのですが、いかがでしょう」とアイデアを提案した。その○○というアイデアは、午前中に松下さんが私に話してくれたのとほぼ同じものだった。
だから私は、松下さんが「それはわしも考えていた。午前中に江口君に話していたところなんだ」と言うと思った。しかし、松下さんはそうは答えなかった。ウンウンと頷くと、「君のそのアイデアはなかなかいいな。よし、すぐにそれをやろう」と応じたのである。これが松下幸之助さんのやり方だった。自分の立場も、自分の面子もどうでもよかった。社員にやる気を出させ、生き生きと仕事をさせることが第一義だったのである。
思えば松下幸之助さんは、持ってきた情報そのものを評価するのではなく、持ってきた人の努力や勇気を評価していたのだ。
「よく、わしのところへ話しに来てくれたな」
「その情報を持ってくるためには、大変な勉強が必要だったろうな」
そんな気持ちだったに違いないし、実際、そのように口に出しもした。松下幸之助さんはけっして「今は忙しいから、後にしてくれ」とは言わなかった。アポイントメントが入っている場合は別として、よほどのことがない限り、その社員を部屋に入れ、話を最後まで聞いた。「時間がないから、その辺りでやめてくれ」とも絶対に言わなかった。これは簡単なようで、実はなかなかできることではない。
「猿は猿、魚は魚、人は人」講談社 前PHP研究所社長・江口克彦氏著
「そのことはすでに知っている」
「私も考えていた」
と言わず、また、
「忙しいから後にしてくれ」
「時間がないから、そのあたりで辞めてくれ」
とも言わないという松下幸之助さんの聞き上手ぶりはすばらしいものです。
私は人の話を聞くことが多いですが、つい、
「その話は知っています」
と言ってしまいます。まずは自らの言動を見直すことから始めます。
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