「領土保全の原則」と「民族自決の原則」
問題は自国の領土を一方的に奪われたウクライナです。
彼らが激怒するのはもっともですし、ロシアから取り戻そうと戦争したくなる気持ちもわかります。しかし、今は「法的」な話をしています。
実をいうと、「領土保全の原則」と「民族自決の原則」は、どっちが上なのか、定まっていないのです。
で、どっちが上なのかは、「その時々の大国の国益によってきまる」というのが事実。
例をあげましょう。たとえば、ウクライナ。
ウクライナは、「ソ連崩壊によって独立を達成した」とみんな思っています。
実をいうとウクライナ最高会議がソ連からの独立を宣言したのは1991年8月24日です。ソ連が崩壊したのは1991年12月25日ですので、4か月前に「中央政府の意志に反して一方的に」独立を宣言している。
そして、12月1日には「住民投票」が実施され、独立が承認された。これも、ソ連中央政府の意志に反して行われた。
しかし、「ソ連崩壊」を望むアメリカ、西欧、日本が、この件で、「ウクライナの独立宣言は国際法違反だ!」と非難することはありませんでした。ウクライナだって当時は、「民族自決の原則」をよりどころにしていたわけです。
もう少し最近の話。たとえば、コソボ。
セルビアの自治州だったコソボは、アルバニア系住民が多い(約92%)。コソボ自治州議会は08年2月、セルビアからの独立を宣言しました(もちろん、セルビアは反対)。
そして、アメリカ、イギリス、フランスなどは、即座にコソボを「独立国家」として認めてしまいます。米英仏は、セルビアの「領土保全の原則」より、コソボ・アルバニア系住民の「民族自決の原則」を重視したのです。
ロシアは、コソボが独立宣言した約半年後、08年の8月にグルジアと戦争をしました。そして、グルジアからの独立を目指す、南オセチアとアプハジアの独立を認め、「国家承認」してしまった。
ちなみにロシアとセルビアは、同じ「正教圏」に属し非常に仲がいい。それで、プーチンは、欧米がコソボ独立を認めたことに、とても憤っていたのです。
「やられたら、やり返す!倍返しだ!」ですね。欧米がコソボを独立させるなら、俺たちは南オセチアとアプハジアを独立させる!
「領土保全の原則」と「民族自決の原則」。国際法ではどっちが上か定まっていない。だから、鳩山さんが、「クリミア住民投票の結果」を肯定したとしても、「絶対悪」とはいえないのです。
欧米だって、ウクライナや、他の旧ソ連諸国、あるいはコソボの「一方的選択」を支持した前例があるのですから。