今年に入り人民元安が進んでいると思い込んでいる投資家が多いようだが、事実はそうではない。人民元対ドルレート基準値の昨年来安値は1月7日の6.5646である。その後は緩やかではあるが、人民元高が進んでいる。(『中国株投資レッスン』田代尚機)
株価下落の理由を人民元安に求めるのは間違っている
偏見に満ちた「中国経済悪化」論
中国は人民元を安く誘導し、輸出を回復させようとしているとか、資金流出が激しいために人民元は下落しており、それは中国経済の加速度的な悪化を予兆しているとか、偏見に満ちた考え方があるようだ。
前者では、「これは近隣窮乏化策であり、その連鎖が世界の貿易を委縮させ、世界同時不況を引き起こす」といった連想を呼ぶ。
後者では、「経済の規模、輸出額においてアメリカに次ぎ世界第2位の中国で景気が急落すれば、世界経済に甚大な被害が及ぶ」といった連想を呼ぶ。
NY、東京、香港、欧州の株式市場は年初から大きな下落に見舞われているが、その理由を人民元安に求めるとしたら、それは間違っている。
人民元安懸念が問題だとする見方もあるだろう。しかし、人民元相場は中国人民銀行によってコントロールされている。
人民元をコントロールできる中国人民銀行
8月11日、中間レートが突然、前日と比べ1.82%安い水準に決められるといった事件(?)が起きたが、その際、中国人民銀行はWebサイトを通じ、「8月11日以降、前日の終値を参考として、外貨の需給状況、国際主要為替市場の変化を総合的に考慮して基準値を算出する」と発表した。
当時は国務院の中に、「人民元を市場の需給に任せることで、人民元安を実現させよう」といった考え方があったかもしれない。
しかし、中国人民銀行は為替取引を完全に市場に任せるなどとは一言も言っていない。「外貨の需給状況、国際主要為替市場の変化を総合的に考慮して算出する」としている以上、システム上も管理が可能な状況にある。
言葉で説明するよりも、中国人民銀行のWebサイトをしっかり見た方が早い。Webサイトにおける「市場動態」の「人民元為替レート・基準値」を見れば、過去1年間における基準値の動きがチャートで示されている。もちろん、データは過去数年に渡り、遡って取れる。
※中国人民銀行Webサイト
基準値形成メカニズムについてもきちんと書いてある。ただし、その内容は昨年8月11日以前と全く変わっていない。
つまり、今でも中国人民銀行は都合により、為替レートを管理したり、市場に任せたり、自由にコントロールできるということである。
オンショア市場において多少の市場介入が行われているだろうが、為替操作の中心はあくまで基準値の管理である。オフショア人民元市場においては、自由な市場取引であることから、市場介入は頻繁に行われている可能性はあるが、オフショア人民元市場はオンショア市場と比べ規模は充分小さい。本土への影響はそれなりだ。
また、オフショア市場においても中国人民銀行は業者に対する監督管理を通じて、市場をコントロールすることができる。
中国の為替市場については、原則自由取引であるアメリカや日本などと同様に考えるわけにはいかない。
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