1月29日、サプライズだった日銀のマイナス金利導入のあと、日本を含む世界の金融(通貨、株価、金利)は、普通では解釈ができない動きをしています。2月10日(水)の日経平均株価の終値は1万5713円、円安で株価を上げることを狙っていた日銀にとっては大きな誤算です。
日銀は、ドルの金利が2%台なので、円をマイナス金利にすれば円安になると見ていたはずですが、金融市場における「織り込み」のしくみが見えていなかったのかもしれません。
本稿では、FRBによる0.25%の利上げ(2015年12月16日)と、日本のマイナス金利(2016年1月29日)の動きをもとに、その基底でいまどんなことが起こっているのかを考えます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
通貨、金利、株価で多面的に理解すべき「織り込み」のしくみ
日経平均は大きく下落:1万5713円
2月9日(火)には、日経平均株価は918円も下げ、終値は1万6085円でした。月曜日は欧米市場が休日なので、大きな動きがないことが多い日です(ほぼ12時間のタイム・ラグ)。
火曜日に大きく下げるのは、週明けのヘッジ・ファンドによる海外からの先物売りが原因です。今日2月10日(水)も売られて下げ続け、前場は1万5699円、終値は1万5713円でした。
マイナス金利が発表された直後の2月1日には、1万8000円付近に上げ戻していたので、そこから2400円(13%)も下げています。
円は6%上昇
一方、マイナス金利の発表直後には、1ドル121.1円に下がっていた円(1月29日)は、その後、金利とは逆に円高に向かい、今日は114円台に上がっています(2月10日午後13時時点)。
ほぼ7円(6%)の円高と、2400円の日経平均下落が対応しています。
一般に、金利が下がれば、受け取り金利が減る通貨は下がります。期待収益率が金利に同調して下がる株価は、上がります。
(※注)理論株価=期待純益÷期待収益率です。分母の期待収益率が小さくなると理論株価は上がります。これが、金利が下がると、PER倍率が上がる効果です
ところが円のマイナス金利で実際に起こったことは、逆でした。
- 円は上がる
- 株価は下がる
という動きだったのです。
ただし、金利が下がると流通価格が上がる国債価格は上昇しています。1月28日には利回りが0.22%だった10年債は、2月9日にはマイナス0.03%付近に下がり、そのぶん価格が上がったのです。
どれくらい上がったのか計算します。国債の残存期間は、総平均が7年なので、7年とします。
長期国債価格=(1+0.22%×7年)÷(1-0.03%×7年)=1.0154÷0.9979=1.0175
利回りが0.22%で100万円だった国債が、今は、101万5400円で売れるということです。
この国債を7年間もつと、買った人(金融機関)は101万5400円払って、満期の受け取りが100万円ですから、1万5400円損をします。これが、国債のマイナス金利の意味です。金利の低下で、国債価格は上がります。
金利低下で下がるべき円が上がって、上がるべき株が下がった
ところが、金利が下がって普通は下がるべき円は、逆に上がっていて、上がるべき株価は下がっています。なぜこんな逆転した現象が起こるのか。答えることができますか?
メディアは、「リスク資産(=株)を売って安全資産の円国債に向かった」という理由づけだけしか言いません。では、円と円国債はなぜ、ドルやユーロ国債より安全な資産なのでしょうか。そこは説明がなく、なんだかよくわからない。
以上の理由を、本稿で考えます。