2月8日付の日経新聞記事。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は「市場デリバティブが使えたら損失を回避できた」などという発言は、「羽があったら空を飛べたのに」というのと同様、無いものねだりの戯言でしかない。
プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝えるメルマガ『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』がまぐまぐ大賞2015メディア賞を受賞。
公的年金(GPIF)の資産運用能力と日経新聞報道に疑問符
いったい何が「壁」なのか意味が分からない
今のGPIFは円高で運用資産に損失が出ないように為替ヘッジ(差損回避)をしようとしても、市場参加者の多い市場デリバティブが使えない規制の「壁」がある。店頭デリバティブは使えるものの、相対取引なのでGPIFの投資行動が市場に伝わりやすく、為替相場に影響を及ぼす可能性がある。
出典:GPIF、損失回避に規制の壁 – 日本経済新聞(2016年2月8日)
市場参加者の多い市場デリバティブが使えない規制の「壁」…?
為替のデリバティブ取引は、「市場デリバティブ」に比較して圧倒的に「店頭デリバティブ」の方が多い。
しかも、GPIFはインハウス運用のなかで、為替の「先物」「オプション」の店頭取引は許されている。こうした状況で何が「壁」だというのだろうか。
市場規模の大きい「店頭デリバティブ」ができる体制がありながらそれを利用することもなく「価格変動リスクを避けるデリバティブが使えれば、損失を少なくできたという思いが強い」というのは意味が分からないし、もともとそれを使いこなす能力を備えていないと批判されても仕方がないこと。
「羽があったら空を飛べたのに」
「GPIFの投資行動が市場に伝わりやすく」というが、それは市場取引だろうが店頭取引だろうが同じこと。
世界最大の機関投資家なのだから、本当にヘッジするつもりがあるならばその取引量も世界最大になる。GPIF以上の規模で取引する投資家が少ない以上、投資行動が市場に伝わるのは覚悟しなければならないことでしかない。
また、GPIFが円高をヘッジする投資行動に出れば、実際にGPIFがドルを売ることがなくても、誰かがGPIFの代わりに市場でドルを売ることになるというのが市場の基本的構図。
要するに、世界最大の機関投資家は、機動的なヘッジで損失を回避するのは難しいという宿命を負っているわけで、「市場デリバティブが使えたら損失を回避できた」などという発言は、「羽があったら空を飛べたのに」というのと同様、無いものねだりの戯言でしかない。
GPIFの基本ポートフォリオを決定する有識者達が、資産運用の経験がなく、GPIFがこうした宿命を負っていることを認識できる「現実の知識と経験を持っていない」という、現実の知識と経験の「壁」が存在していることこそがGPIFの最大の問題だといえる。
『近藤駿介~金融市場を通して見える世界』(2016年2月8日号)より
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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