わたくしは昨年の秋ごろから「今後、新興経済諸国に投じられていたおカネが巻き戻り、アメリカが利上げをしたとしても、ドル安円高になってしまい、日経平均は下がる」と語っていたのですが、結構、反発を受けていました。(三橋貴明)
記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年1月21日号より
※本記事のタイトル・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
安倍政権の「株価至上主義」を成立させていた円安株高は終焉した
「米国が利上げするのだからドル高円安になるに決まっている!」の誤り
1月17日に「三橋経済塾第五期 第一回」の講義が開催されました。経済塾がどのようなものか分からない、というお問い合わせを多数頂きましたので、冒頭部分をご紹介。
講義で使っているパワーポイントは、もちろんダウンロード可能になります。手元にパワーポイントの資料をご用意して頂き、いつでも、どこからでも三橋の講義を受けられるというシステムになっているのでございます。
一年間に十二回、講義が開催されます。基本、東京ですが、講義にお越し頂けなくても、インターネット経由で受講できます。よろしくご検討下さいませ。
講義の冒頭でも語っていますが、現在の世界は日経平均の続落を見るまでもなく、波乱含みです。もっとも、日経平均の下落は「円高」が原因です。
グラフを作ってみて、自分で吃驚してしまったのですが、2015年の東証第一部の株式売買シェア(委託、金額)において、海外投資家が70%を超えていました。これでは、日本株の値動きが為替レートに変動するようになってしまったのも無理もありません。
海外投資家は円安になれば買う。円高になれば売る。ただ、それだけの話です。
ところで、わたくしは昨年の秋ごろから「おはよう寺ちゃん活動中」や経済塾、月刊三橋、講演などで、「今後、新興経済諸国に投じられていたおカネが巻き戻り、アメリカが利上げをしたとしても、ドル安円高になってしまい、日経平均は下がる」と、語っていたのですが、結構、反発を受けていました。
「アメリカが利上げをするのだから、ドル高円安になるに決まっている!」などと、詰め寄られたこともあります。
そりゃまあ、世界に日本とアメリカの二カ国しか存在しないのであれば、そうなるでしょう。
とはいえ、昨年、中国に行き、中国経済の失速を確かめ、さらにブラジル・レアルやトルコ・リラ、南アフリカ・ランド、ロシア・ルーブルなどの動きを見ていると、「あ、これは中国を含めた新興経済諸国に投じられていた資金が巻き戻り、確かに対新興経済諸国の通貨に対してはドル高になるだろうけれども、それ以上の円高になるな」と、確信したのでございます。
特に象徴的だったのは、中国において資源が七割超を占める「輸入」が継続的に下落していったことです。大本の中国経済が、明白に需要縮小状況に入り、資源国や新興経済諸国も「過剰設備」状態に突入し、日米欧通貨への為替の両替がすでに始まっていた。これが、昨年秋からアメリカの利上げまでの状況でした。
新興経済諸国からの両替(資金流出、という言い方は少し変だと思います)が増えると、当たり前ですがこれらの国々の為替レートが下落します。当然、ドル高にはなるわけですが、「それ以上の円高」になってしまうというのが毎度のパターンです。
ドルを経由して新興経済諸国に投じられたおカネにしても、元をたどると「安い金利」で調達できる日本円というケースが少なくないわけです。(無論、日本円から直接両替されたケースもあります)
新興国はかつての活況が消え去り、成長と投資が共に落ち込んで出血がゆっくりと続く悪循環にはまり込んだようだ。既に過去1年半に1兆ドル以上もの資金が逃げ出したが、流出はまだ道半ばにも達していない可能性がある。
新興国経済は金融危機を経験し、この10年間にいくつかの通貨や債務の大きな変動が市場全体に波及する事態に何回も見舞われてきた。しかしダボス会議に参加する各界指導者は、今回の危機を払しょくするのは容易ではないと不安を感じている。
懸念の元になっているのは米国の金融引き締めとドル高で、これに中国経済の減速、コモディティの「スーパーサイクル」の崩壊が重なった。このため新興国の状況がいずれ急激に持ち直し、最悪の事態に立ち向かう胆力を持つ投資家が利益を手にするという展開は見込めないとの不安が広まっている。<後略>
IIF(国際金融協会)によると、01年から11年にかけて新興経済諸国に「純流入」した額は計3兆ドル近くに達するとのことです。すでに、資金の流れは逆転しており、IIFによると2015は5400億ドルが新興経済諸国から流出したとのことです。アジア通貨危機の時期(1988年)以来、初めての純流出です。
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