今回のテーマは年初来の株価下落と2016年の見通しです。15年12月末の1万9000円から1万7500円付近(13日:前場)まで、1500円(約8%)下げています。近年、株価とピタリ逆に動く円相場は、年末の$1=121円水準から、今日は117.95円です。ほぼ3円(2.5%)の円高になっています。
原油と資源価格下落、及び昨年12月のFRBの利上げ(0.25%)を主因に、世界のマネーの流れが、大きく変わってきました。中国経済の減速と言われますが、その要因はむしろ少ないでしょう。奔流は、世界から米ドル(米国債)へ回帰する動きです。
FRBの利上げの「語られない目的」は、2008年末以降3度の量的緩和(金額では$4兆:480兆円)というマネー投入によって発生した資産バブル(株価と不動産)を、崩壊しない前につぶしておくことでした。FRBの狙い通り、まず株価が下落調整になっていると言えます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
1.年初来の株価の変調~誰が買い、誰が売ったか?
2012年からの主体別買い超、売り超の大きな動きを確認する
中国の株価下落(上海総合)、北朝鮮の核実験、イランとサウジの断交、IS(イスラム国)のテロ、原油・資源価格の下落、米国FRBの利上げなど、メディアでは、いろんな理由が言われています。もちろん、それぞれの理由はある。
肝心なことは、誰が買い、誰が売ったかです。売買の行動にならない限り、株価も為替相場も動かないからです。
まず過去4年の、投資主体別の売買を見てみます。プラスは買い超、マイナスは売り超です。買い超は株価を上げる要素であり、売り超は下げる要素です。
表を見ると、過去4年、どの主体が買って上がり、どの主体が売って下がったか、わかります。
2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | |
---|---|---|---|---|
外国人 | 2.8兆円 | 15.1兆円 | 0.9兆円 | -0.3兆円 |
自己 | 0.3兆円 | -0.6兆円 | 0.3兆円 | 1.6兆円 |
個人 | -1.9兆円 | -8.8兆円 | -3.6兆円 | -5.0兆円 |
投資信託 | 0.4兆円 | -0.2兆円 | -0.2兆円 | 0.2兆円 |
信託銀 | -1.0兆円 | -4.0兆円 | 2.8兆円 | 2.0兆円 |
事業法人 | 0.4兆円 | 0.6兆円 | 1.1兆円 | 3.0兆円 |
生損保 | -0.7兆円 | -1.1兆円 | -0.5兆円 | -0.6兆円 |
都銀等 | -0.1兆円 | -0.3兆円 | -0.1兆円 | -0.6兆円 |
日経平均 | 1.0万円 | 1.6万円 | 1.6万円 | 1.9万円 |
(注)日経平均は、該当年の12月末の株価指数(日経225)
出典:投資家主体別売買動向表 – 安藤証券
主体別売買への4つのコメント
(1)「自己売買」は、証券会社の売買の受託ではない自分での売買です。この中には、日銀による株式上場投信(ETF)の買い(3.3兆円/年)による、現物株の買いが混じっています。
(2)信託銀の売買には、公的年金基金GPIFの売買が混じっています。
上記の自己売買と信託銀の買い超が、2014年10月からの追加緩和以降の「官製相場」を作ってきました。上表の日経平均では、この官製相場分は、1万6000円→1万9000円、つまり3000円(19%)の上昇という結果です。
ここ4年の株式相場の動きと理由としては、2013年の1万円から1万6000円への60%上昇は、外国人投資家の、年間15.1兆円の買い超によるものでした。2014年の1万6000円から2015年の1万9000円への19%上昇は、年金基金、公務員共済年金、郵貯、かんぽ、日銀が買い進んだ官製相場でした。
(3)2014年から増えてきた事業法人の買いは、ほとんどが、わが国でも増加した「自社株買い」です。
2015年には、3兆円の買い超になり、2015年の株価を3000円(19%)上げた、もっとも大きな要素になっています。米国流のROE経営(=株価上昇経営)を行えという米国からの要請による2015年のわが国の株価(3000円上昇:19%)は、官製相場と自社株買いが原因です。
(4)わが国の生保と銀行は、2000年代はリスク資産の持ち合い解消を唱えて、売り手になっています。
国内の売買では、生保と銀行が株を売り続けるため、個人投資家が買い受けないと、構造的に下がる相場になっているのです。
2000年代以降、日本の株式相場が、外国人の買い依存になった理由は、以下の2つです。
- 大株主だった生保と銀行が、持ち合い解消と言いながら、リスク資産の株を売り続けた
- 個人投資家が、投資信託を含んでも、米国のように売買の50%以上にならず、わが国では売買シェアがとても低い(22%前後)
外国人投資家の売買シェアは67%(2015年12月)です。このため、ガイジンが売れば下がり、買えば上がる。
「米国の株価のコピー相場+官製相場─個人の売り」が、2015年のわが国の株価を作っていました。日経平均の幅は、2万1000円(15年5月~8月)~1万7000円(10月)と、約4000円(24%)の波動だったのです。
売買の構造~60~70%を占める外国人
東証1部の年間売買は、ほぼ700兆円(1日平均2.8兆円:2015年)でした。この売買のうち60%~70%を外国人が占めています。
外国人とは、ヘッジファンド、国家ファンド(SWF:後述)、投資銀行です。そのほとんどは、タックス・ヘイブン(オフショア)からの買いです。
原油と資源の価格低下による、国家ファンドの運用資金の急減が、ガイジン買いを減らし、売りを多くして、2015年から2016年1月の下落相場を作っています。
わが国でも700兆円の売買のうち、ほぼ60%(420兆円)は、コンピュータプログラムでの自動売買(HFT:超高速売買)です。ミリ秒、ナノ秒単位で「他より早く売買し差益を得る」ものです。他の、買い注文を察知すると、先回りしてその価格(指値)で買ってすぐ売り、確実な差益を稼ぐ方法です。
日本人と日本の金融機関の売買は30~40%のシェアに過ぎず、価格を大きくは形成できません。日本人で大きく売買するのは、名寄せ後で約700万人(口座数は4500万)の個人投資家です。
売り越しを続けている個人投資家
個人投資家は、2012年からは1.9兆円、2013年8.8兆円、2014年3.6兆円、2015年5.0兆円と、一貫して大きな売り超です。
リーマン危機後の株価下落(日経平均8100円:09年3月)で被った大きな損を、2013年以降の外人買いと官製相場で回復するための売りを行ってきたからです。
- 2012年末の日経平均1万円を、13年末の1万6000円に上げたのは、2013年の、外国人の15.1兆円もの、大きな買い超でした
- 2014年末の1万6000円の株価を、2015年末の1万9000円に上げてきたのは、官製相場と自社株買いでした
予想の反省としては、年金基金、公務員共済年金、郵貯、かんぽ、日銀の5つのクジラによる日本株の買いは、もっと大きな上昇(日経平均で2万3000円)になると考えていました。
ところが2015年は、個人投資家の、損失回復のための利益確定の売り超が5兆円と一層大きかった。
5頭のクジラの買いで上がると、個人投資家が売ったのです。個人投資家は、政府が囃した官製相場に対し「踊ってはいなかった」。
個人投資家は「逆張り」が多い。上がると売り、下がると買う。2015年は上がるときの売りが大きかった。理由は、証券会社が誘う官製相場を信用していないからでしょう。
日本の株価は、海外からの売買で大きく動きます。これを追求するには、世界のマネーの大きな流れをみなければならない。この視点を、以下のデータで確保しましょう。
Next: 2.国際的な資金の大きな動きはどうなっているか?