あの竹中平蔵氏も旗振り役を担ってきた「トリクルダウン」とは、「富裕層や大企業を豊かにすると、富が国民全体にしたたり落ち(=トリクルダウン)、経済が成長する」という仮説です。しかし三橋貴明氏は、いまの日本でこの「トリクルダウン」が成立する可能性は限りなくゼロに近いと指摘します。
記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016年1月6日号より
※本記事のタイトル・リード文・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
現在の日本においてトリクルダウン前提の経済政策は間違っている
竹中平蔵氏が手のひら返し「滴り落ちてくるなんてあり得ないですよ」
さて、今さらですが、トリクルダウンとは何でしょうか?
トリクルダウンとは、「富裕層や大企業を豊かにすると、富が国民全体にしたたり落ち(=トリクルダウン)、経済が成長する」という「仮説」です。トリクルダウン「理論」と主張する人がいますが、単なる仮説です。
上記は今一つ抽象的なので、より具体的に書くと、「富裕層減税や法人税減税をすると、国内に投資が回り、国民の雇用が創出され、皆が豊かになる(=所得が増える)」となります。
要するに、グローバリズム的な、あるいは新古典派(以前は古典派)経済学的な「考え方」に基づき、所得が多い層を優遇しようとした際に、政策を「正当化」するために持ち出される屁理屈なのでございます。
ちなみに、大恐慌期のアメリカでは、財閥出身の財務長官アンドリュー・メロンが「法人税減税」を推進した際に、まんまトリクルダウン仮説が用いられました。
さて、現代日本において、トリクルダウンで安倍政権の法人税減税に代表される「グローバル投資家」「グローバル企業」を富ませる政策を正当化していたのが、みんな大好き!竹中平蔵氏です。
テレビ朝日系の「朝まで生テレビ!」。「激論!安倍政治~国民の選択と覚悟~」と題した1日放送の番組では、大田区の自民党区議が「建築板金業」と身分を隠し、安倍政権をヨイショするサクラ疑惑が発覚。「今年初のBPO入り番組」とネットで炎上中だが、同じように炎上しているのが、元総務相の竹中平蔵・慶応大教授の仰天発言だ。
番組では、アベノミクスの「元祖3本の矢」や「新3本の矢」について是非を評価。冒頭、「アベノミクスは理論的には百%正しい」と太鼓判を押した竹中平蔵氏。アベノミクスの“キモ”であるトリクルダウンの効果が出ていない状況に対して、「滴り落ちてくるなんてないですよ。あり得ないですよ」と平然と言い放ったのである。<中略>
竹中平蔵氏がトリクルダウンの旗振り役を担ってきたのは、誰の目から見ても明らかだ。その張本人が今さら、手のひら返しで「あり得ない」とは二枚舌にもホドがある。埼玉大名誉教授で経済学博士の鎌倉孝夫氏はこう言う。
「国民の多くは『えっ?』と首をかしげたでしょう。ただ、以前から指摘している通り、トリクルダウンは幻想であり、資本は儲かる方向にしか進まない。竹中氏はそれを今になって、ズバリ突いただけ。つまり、安倍政権のブレーンが、これまで国民をゴマカし続けてきたことを認めたのも同然です」<後略>
出典:「トリクルダウンあり得ない」竹中氏が手のひら返しのア然 – 日刊ゲンダイ
そもそも、トリクルダウンが成立するためには、絶対的に必要な条件が1つあります。それは、富裕層なり大企業で「増加した所得」が、国内に再投資されることです。前述の通り、トリクルダウンとは、富裕層や大企業の所得が「国内の投資」に回り、国民が豊かになるというプロセスを「仮定」したものなのです。
ゲンダイの説明も、かなり抽象的ですね。
「トリクルダウンは、富裕層が富めば経済活動が活発になり、その富が貧しい者にも浸透するという経済論」
まあ、それはそうなのですが、正しくは「富裕層が富み、国内に投資がされる」ことで経済活動が活発になるという話なのです。
すなわち、資本の移動が自由化されたグローバリズムの下では、トリクルダウンなど成立するはずがないのです。特に、デフレーションという需要不足に悩む我が国においては。
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いまの日本でトリクルダウンが成立する可能性は限りなくゼロに近い
富裕層減税や法人税減税で、「富める者」の可処分所得を増やしたところで、「グローバリゼーションで~す」などとやっている状況で、国内への再投資におカネが回ると誰が保証できるのでしょう。誰もできません。
結局、企業は対外直接投資、富裕層が対外証券投資におカネを回すだけではないのでしょうか。特に、日本のように国内にめぼしい投資先がなく、国債金利が長期金利で0.26%と、異様な水準に落ち込んでしまっているデフレ国では。というか、国内における投資先がなく、民間がおカネを借りないからこそ、長期金利が0.26%に超低迷してしまっているわけですが。
無論、国境を越えた資本移動が制限されていたとしても、トリクルダウンが成立するかどうかは分かりません。減税で利益を受けた富裕層や企業が、国内に投資せず、増加した所得を「預金」として抱え込んでしまうかも知れません。
「いやいや、貯蓄が増えれば金利が下がり、国内に投資されるので、トリクルダウンは成立する」などと学者は反駁するのかもしれませんが、長期金利0.26%であるにも関わらず、国内の投資が十分に増えないデフレ国で、何を言っているの?頭、悪すぎるんじゃないの?という話でございます。現在の日本は、企業の内部留保までもが史上最大に膨れ上がっています。
お分かりでしょう。トリクルダウンが仮に成立するとしても、その場合は、
- 国境を越えた資本の移動が制限されている
- デフレではない
と、最低2つの条件が必要になるのです。ところが、現実の日本はグローバル化を推し進めつつ、同時にデフレです。トリクルダウンが成立する可能性など、限りなくゼロに近いわけでございます。
そんなことは端から分かっていたし、何度も著作等で訴えてきたわけですが、残念ながらマスコミの主流は「トリクルダウン理論により、法人税減税は正しい」とう、「頭、悪すぎるんじゃないの?」理論が主流を占めていました。
少なくとも、現在の日本において、トリクルダウン前提の経済政策は「間違っている」と、全ての国民が認識する必要があるのです。
『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/1/6号より
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