大阪府知事・大阪市長のダブル選挙は11月22日投開票され、維新公認の松井一郎氏(51)と吉村洋文氏(40)がそれぞれ当選を果たしました。いっぽうで国政政党「おおさか維新の会」への期待感には、大阪とそれ以外の地域で大きな開きがあるようです。なぜ橋下徹氏の「維新」は大阪で“だけ”支持されるのか?藤井聡・京都大学大学院教授が仮説的論考を試みます。
記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年11月17日号より
※本記事のタイトル・リード文・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
大阪人の潜在的願望に訴えかける、橋下徹の強烈なファンタジー
橋下さんの維新って、大阪ではそんなに強いんですか?
先日、東京である会合があったのですが、その席で、大阪の世論調査の報道が流れてきました。
橋下徹大阪市長に近い大阪選出の議員らが発足させる「おおさか維新の会」に「期待する」は28%で「期待しない」が56%に上った。
橋下新党に「期待」28% 関西圏では50% – 日本経済新聞(2015/10/25)
どうやら、大阪市長選では、維新の吉村候補が、(元)自民党の柳本候補に10ポイント以上の差をつけてリードしており、大阪府知事選では、維新の松井候補が、(元)自民党の栗原候補にさらにより抜本的な差をつけて優勢にたっている、という報道でした(新聞では数字は出さないのですが、専門家が見れば、「リード」「優勢」という表現から、おおよそどの程度の差がついているかが分かるようになっているのです)。
新聞記者たちの感覚では、これだけ差がつく結果が出れば、府知事選についてはもう松井さんの勝利が確定、市長選についても吉村さんがおそらくは勝利するのでは、という憶測が十分に成立する…というような種類の報道でした。
この報道が会食の席上で話題に上ったとき、多くの方が、
「えっ!?橋下さんの維新って、大阪ではまだそんなに強いんですか!?」
という驚きの反応でした。
大阪では2人に1人が「おおさか維新」に期待している
つまり「橋下維新」は、もう東京では(大阪以外では)、完全に「賞味期限切れ」なのでは…という雰囲気が、濃密に流れているのです。特に、昨今では維新の「分裂騒動」が何度も報道されていましたから、多くの方々が維新に対して「うんざり」する感覚をお持ちになっているようです。
最近の世論調査(全国)において、橋下氏が立ち上げた「おおさか維新の会」に「期待しない」という声が、「期待する」という声を圧倒している事実は、大阪以外でいかに橋下維新が賞味期限切れの状況にあるかを指し示しています(「期待する」は28%で「期待しない」が56%)。
ただし…大阪・関西では、2人に1人が「おおさか維新の会」に期待しており、期待しない声(42%)を大きく上回っているのです。
そして、そうした「期待」を反映するかのように、いま維新候補が、先に紹介したように大阪府知事選、市長選の双方で、非維新候補をリードしている、という次第です。
こうした状況に、東京、全国の方々が「驚き」を見せるのですが、その「驚き」の根底には、よくよく聞くと次のような印象があるようでした。
「なぜ大阪の人って『振り込み詐欺』みたいなものに、何度も引っかかっちゃうの?」
実際、こういうセリフで当方に質問してこられた方は、一人や二人ではありません(!)。
つまり、多くの関西外の方は、都構想の住民投票で「これがラスト!」って言ってたのにいきなり「再挑戦」って言っているし、「負ければ引退!」って言ってたのにやっぱり政界復帰する様子だし――そんなことを考えれば、橋下氏が「うそつき」であることなぞ誰の目から見ても明らかなのに、なんでまだそんな「うそつきの橋下さん」を大阪の人たちの多くがいまだに支持しているのか、「ワケ分かんなーい」というご様子なのです。
橋下徹氏は計算づくの「大阪限定」プロパガンダを仕掛けている
しかし、これには簡単な理由があります。
「ブラック・デモクラシー」論、すなわち「全体主義」論を踏まえれば、多くの大阪の人たちが橋下さんたちを支持する一方で、東京の方々が支持しないことの、大変にシンプルな理由が見えてきます。
ブラック・デモクラシー=全体主義では、ポピュリスト(人気を得るためなら何でもする者)のデマゴギスト(ウソツキ)は、彼自身の党利党略を実現するために、人々の潜在意識に働きかける「政策」を、政策的合理性を度外視しつつ「開発」して、世論的支持を得ることを目指します(同時に、その政策を批判する人々に、徹底的な封殺圧力、弾圧をしかけます)。
もしも、橋下氏がそうしたブラック・デモクラシーを展開するポピュリストのデマゴギストであるとするなら、彼がいま目指しているのは「大阪での支持」であって、「大阪外の支持」ではない、ということになります。
なぜなら、現時点で必要なのは、大阪ダブル選挙での勝利であり、それ以上でも以下でもないからです。橋下氏がポピュリストであるのなら、いまは東京での人気など度外視して、大阪での人気だけを得るようなプロパガンダを仕掛けるのが最善の策となります。
それはちょうど、詐欺師は狙い定めた相手だけに「信用」してもらえればそれで事足りるのであって、それ以外のすべての人から「胡散臭い」と思われようが、知ったことではない、ということと同じなのです。
次ページから、「橋下氏はブラック・デモクラシーにおけるポピュリストのデマゴギストである」という仮説が真であるという前提で、彼の政策提案を解説したいと思います。