チャイナ・ショックを受けて急落後、現在は急速に値を戻しつつあるアメリカ株式市場。経営コンサルタントで内外金融に詳しい吉田繁治氏は、堅調な米国株について「量的緩和に端を発する桁違いの自社株買いが要因」と指摘。ロバート・シラー博士の「シラーP/Eレシオ」の数値を根拠に、今回の「自社株買いバブル」は利上げ後には崩壊する可能性が高いと分析しています。
シラーP/Eレシオの25倍超えは135年間で3回だけだった
シラーP/Eレシオで見る米国の株価
2013年にノーベル経済学賞をもらったロバート・シラー(行動経済学)は、1期だけの予想PERではなく、10年間の移動平均から算出した企業純益(インフレ率マイナス後)で計算した、過去135年間のシラーP/Eレシオを発表しています。
1期だけの予想純益では、利益の変動が激しいためPER倍率が不安定になり、株価の水準を計るには不適当だからです。
10年の純益を元にしたシラーP/Eレシオは、CAPEシラーP/Eとも言われます。10年PERと言ってもいい。
シラーP/Eレシオ=現在の株価÷インフレ調整後の過去10年の1株当たり純益の移動平均
※Shiller PE Ratio
- 過去のシラーP/Eレシオの平均=16.63倍
- 最小値=4.78倍(1920年の12月)
- 最大値=44.19倍(1999年の12月:IT株バブル)
グラフで見ると、2015年8月は、シラーP/Eレシオが26.10倍になっています。08年9月のリーマン危機後、歴史的平均の16.63に近い15倍に下がった後、3回のQE(量的緩和)により、26.10倍に押し上げられています。
過去、このシラーP/Eレシオが25倍を超えたのは、3回しかありません。
[1回目]
1929年の大恐慌の直前の、株価バブルの時期:シラーP/Eレシオで30倍。その後、1933年の5倍にまで暴落しています。
[2回目]
2000年のIT株バブル:シラーP/Eレシオで45倍と最高の値でした。情報技術とインターネットでのIT革命が、将来の利益を3倍は大きく予想させていました。
このIT株バブルは00年4月からはじけて、シラーP/Eレシオで23倍に下げています(2002年)。
[3回目]
2008年の、サブプライムローン・バブルの時期:シラーP/Eレシオでほぼ27倍でした。同年9月からのリーマン危機とともに、米国の株価は、シラーP/Eレシオで15倍にまで下がりました。
その後、FRBによる3度の量的緩和で$4兆(480兆円)のマネーが増発され、それが銀行の当座預金になり、米国の流動性(ドルの現金)がじゃぶじゃぶになっています。
この過剰流動性を低金利の社債で調達して、毎年の自社株買いに当てたのが米国企業です。推計ですが、米国の流通株は2008年の70%程度に減っていると思われます。
(注)リーマン危機後の6年間で、年平均$6000(72兆円)の自社株買いがあったとして、「72兆円×6年=432兆円」です。米国FRBのドル増発額と見合います。