10月5日に大筋合意に達したTPP交渉に関しては以前から「中国に対する牽制」や「安全保障上のメリット」が喧伝されてきました。しかし、作家の三橋貴明さんはそれらを嘘八百とバッサリ。今後、TPPを推進する政府は国民をどのようにコントロールしようとするか、5つの予想を立てて警戒を呼びかけています。
記事提供:『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年10月12日号より
※本記事のタイトル・リード文・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
だんだんと明らかになってきたTPPのとんでもない全容
自国のことを自国で決めることすらできなくなる
予想通り、TPP関連でとんでもない事実が次々に判明し始めました。
個人的に「最大の驚き」となったのは、「投資」について、日本とアメリカが以下の文書を交換していた事実でした。本件は10月10日のブログで取り上げましたが、あまりにも衝撃的なので、メルマガでも繰り返します。
○投資
両国政府は、コーポレート・ガバナンスについて、社外取締役に関する日本の会社法改正等の内容を確認し、買収防衛策について日本政府が意見等を受け付けることとしたほか、規制改革について外国投資家等からの意見等を求め、これらを規制改革会議に付託することとした。
出典:TPP交渉参加国との交換文書一覧(TPP政府対策本部)2015年10月5日[PDF]
唖然、という以外に言葉が出てきませんでした。15年9月に成立した農協改革は、アメリカの在日商工会議所の提言を受けた規制改革会議が推進し、それを「首相支持」として国会に下し、サクッと成立させてしまいました。
しかも、農地法や農業委員会法の改訂、全農の株式会社化などの「危険なポイント」は一切表に出さず、「農協改革は全中の社団法人化」という矮小化により通ってしまったのです。
もっとも、現時点では別に日本政府だろうが、規制改革会議だろうが、あるいは国会だろうが、アメリカの「意見」を受け付ける義務はありません。在日アメリカ商工会議所が何を提言してこようとも、「我が国のことは、我が国の主権に基づいて、我が国が決定する」と、言えば済む話です。それでもアメリカが我が国に何かを押し付けようとしたら、内政干渉、の四文字で返せばいいのです。
無論、現実の日本はアメリカの提言に従い、規制改革会議や産業競争力会議が動き、国民主権や民主主義そっちのけで構造改革に明け暮れています。とはいえ、一応、表向きは我が国は主権国家、つまりは自国のことを自国で決める権利を持っています。それが、なくなるわけです。
TPPを推進する政府が国民を欺く5つの手法
農協改革のポイントは、以下の5つでした。
- 最も重要性が低いといえる「全中の社団法人化」を前面に掲げ、肝心要の全農株式会社化や農地法、農業委員会法については伏せたまま国会審議を進める
- 国会では、全農株式会社化や農地法・農業委員会法改訂について議論がなされたものの、マスコミには報じない(マスコミが報じない)
- 「攻めの農業」といった抽象的なスローガンを政治家が叫び、本質を隠す
- 真実を知る国会議員や農協関係者、さらには国民に無力感を与え、諦めさせる
- 農協改革に反対する人には、「ならば、日本の農業はこのままでいいというのか!」と、本質と全く関係がない議論に持ち込み、口を封じる。
今後、TPPは以下の手法で推進されるでしょう。
- 農業や製造業の関税問題のみを全面に掲げ、肝心要の構造改革部分や規制改革会議の問題等は伏せたまま批准プロセスを進める
- 国会で各種の構造改革や規制改革会議等の問題が議論されても、マスコミは報じない
- 「世界のGDPの四割を占める大経済圏誕生」といった抽象的なスローガンや、「中国包囲網」といった嘘をマスコミで繰り返し、本質を隠す
- 真実を知る国会議員や国民に無力感を与え、諦めさせる
- 万が一、国民がTPP反対に傾いたとしても、「12ヶ国が5年もかけて合意した事項を、反故にするのか!」と、もめ事を嫌う日本国民に圧力をかける
農協改革は「法律」なので、最悪、後で法律を再改定することで戻すことができます。それに対し、TPPは「国際協定」であるため、後戻りすることは甚だしく困難です。
しかも、今後は中国の軍事的圧力が高まる中、「TPPは安全保障協定」といった嘘八百がまことしやかに語られ、日本国民に「中国に対抗するために、TPP」という印象が植え付けられていくことになります。
我が国は、いよいよ正念場を迎えました。
『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015/10/12号より
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