中国国家統計局が7月に発表したデータによると中国の2015年4~6月期のGDPは前年同期比で7.0%増。一部報道によると第3四半期も同程度を維持するのではないかと言われています。しかし、中小企業診断士で作家の三橋貴明さんはこれら指標に対し懐疑的に捉えているようです。今回は鉄道貨物輸送量とGDP成長率の関係を例に挙げ、解説しています。
つじつま合わせ、ウソだらけの中国の経済統計
中国から発信される統計は「最悪の輸出品」
さて、本メルマガの読者の中で、中国共産党政府が発表する「中国の経済成長率」を素直に信じている人はいないと思うが、経済成長率に限らず、中国の統計は奇奇怪怪だ。何しろ、共産党政府の「面子」あるいは「権威」にかけて、経済成長率はある程度の水準を維持しなければならない。
結果的に、共産党の政治家たちが「鉛筆舐め舐め」自国の成長率の適正水準を決定し、それを公表しているというのが中国の経済成長率の実態なのだ。
中国から発信される経済関連の統計について、筆者は「最悪の輸出品」と呼んでいる。何しろ、中国の統計には二種類しかない。すなわち、
- 統計マジックにより実態が分からない指標
- そもそも、正しくない指標
の二つだ。
1.の代表が、失業率である。中国は全土の失業率ではなく、都市部の「登録失業者」のみをカウントした「登録失業率」のみを発表している。
最近の新聞は「都市部登録失業率」と書くようになったが、以前は「中国の失業率」と報道していた。無論、虚偽というわけではないのだが、都市部の登録失業率を「中国全土の失業率」と誤解させかねない表現であった。
都市部の登録失業率には、農村戸籍の「農民工」は含まれていない。中国全土の失業率は、これはもう神様にもわからないだろう。
また、以前の中国は各都市部の住宅価格について、全体の「住宅価格指数」を発表していた。ところが、最近は「70都市住宅価格指数」と、各都市の住宅指数を個別に発表する形に変更してしまう。結果的に、中国全体の不動産市況の状況が分からなくなってしまった。
また、2.の代表株は、いうまでもなく実質GDPの成長率、すなわち経済成長率だ。
そもそも、中国は経済成長率について「対前期比」ではなく、「対前年比」で統計を公表している。この時点で、他国との「比較」が難しくなっているわけだが、それ以前に中国の成長率は、「中国の各地域のGDPを合計すると、全土のGDPよりも数字が数十兆円規模で大きくなってしまう」という現実がある。要するに、各地の共産党官僚が自分の「出世」のため、GDPを過大申告し、それを合計すると全土の成長率が極端に高くなってしまうため、中央の共産党首脳部が鉛筆を舐めながら、「国際的に、何とか誤魔化しがきく数値」に調整をしているのだ。
結果的に、現在の中国では経済成長率と「比較的信用がおける指標」との乖離がすさまじいことになってきた。代表的なのが、鉄道貨物輸送量だ。
「モノ」が移動していないのに経済成長は維持する不思議
2012年頃まで、中国の鉄道貨物輸送量(対前年比)は、経済成長率よりも「少し低い」水準で推移していた。この時期は、リーマンショックを受けて共産党が実施した大規模経済対策の効果で、確かに実需も伸びていたのだ(不動産バブルを人類史上空前の規模に膨れ上がらせてしまったが)。
それが、2012年後半から鉄道貨物輸送量がマイナスに落ち込むようになり、それでも成長率は7%台を維持し続けている。「モノ」が動いていないにも関わらず、経済成長率は維持されるという奇奇怪怪である。
中国共産党は、成長率と鉄道貨物輸送量の乖離について、「製造業ではなく、サービス業が伸びているため」と、言い訳をしているが、それならば2013年Q3、Q4と、鉄道貨物輸送量がプラス化したにも関わらず、経済成長率が7%台にとどまっていることの説明がつかない。鉄道貨物輸送量が回復し、プラスで産業のサービス化が進んだならば、経済成長率は8%、9%台に上昇したはずだ。
しかも、2015年Q2は、鉄道貨物輸送量が対前年比▲10.9%であるにも関わらず、相変わらず経済成長率は7%。もはや「嘲笑」以外に、適切な表現が思いつかない。
景気後退期にある中国、経済指標を素直に報じる日本のマスコミも問題
要するに、中国は2012年後半からリセッション(景気後退期)に入っているのだ。直近の中国の経済成長率は、良くて0%成長といったところだろう(正確な数字は神様にもわからないだろうが)。
問題は、中国共産党が発表する経済指標が「出鱈目」ばかりであるにも関わらず、それを素直に日本国内で報じる国内マスコミだ。中国最悪の輸出品である「統計」に日本国民が騙され続ける限り、我が国は様々なルートで「損」をし続ける状況が続くだろう。
『週刊三橋貴明 ~新世紀のビッグブラザーへ~』 Vol.330より抜粋 初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中 [月額660円(税込) 毎週土曜日]
※太字はマネーボイス編集部による
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