日銀会合はまさに黒田総裁による敗北宣言だった。市場をコントロールする力を失ってステルス金融緩和縮小に追い込まれたが、海外メディアは報道すらしていない。(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。
もはや印象操作が通じず、市場にサプライズを起こせなくなった…
日銀発表は詭弁ばかり
黒田日銀はいよいよ「オオカミ少年」となった。
「2%の物価上昇が来るぞ」「金融政策に限界はないぞ」…。これまで黒田日銀が繰り返し叫び続けてきたことが全て単なる希望的観測に過ぎなかったことが明らかになった。
限界と副作用が指摘されている「異次元の金融緩和」に対してどのような手を打ち出してくるのか、久しぶりに注目を集めた日銀政策委員会だったが、結果は「異次元の金融緩和」の限界と副作用に対する有効な対応策を日銀が持っていないことが露呈し、一部緩和縮小を余儀なくされる実質的「敗北宣言」となった。
しかし、実質的「敗北宣言」を詭弁によって新たな手を打ち出したかのように見せ、異次元の金融緩和が継続できる印象を与えようとするところが、黒田日銀の常套手段。
金融政策決定会合後に発表された「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」は、詭弁に満ちた全く内容の乏しいものだった。
ウォール・ストリート・ジャーナルは一切報道せず
日本の主要メディアは「副作用に配慮した金融政策の修正」が行われたかのように大きく取り扱ったが、THE WALL STREET JURNAL 日本語版(以下WSJ)では、今回の日銀金融政策決定会合については会合があった事実も含め一切報道していない。
WSJの「経済~金融政策ウオッチ」では、7月27日に開催されたECB理事会後のドラギ総裁の会見の内容から、7月31日~8月1日に開催されたFOMC、さらには8月2日の英イングランド銀行の利上げなど、主要国の金融政策に関するニュースが並んでいるが、日経新聞の一面トップを飾った日銀政策委員会については何も取り上げていない。
WSJが国内で大きな注目を集めた今回の日銀政策委員会について一切報道をしていないのは、「ニュースとしての価値がない」からに他ならない。
黒田総裁の十八番「詭弁による印象操作」
日銀会合後の黒田総裁の発言を振り返ってみる。
「日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、強力な金融緩和を粘り強く続けていく観点から、政策金利のフォワードガイダンスを導入することにより、『物価安定の目標』の実現に対するコミットメントを強めるとともに、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』の持続性を強化する措置を決定した」。
このように、あたかも日銀が今回初めてフォワードガイダンスを導入するかのような印象を与えることで、「異次元の金融緩和」がより強化されるかのような印象を与えようとする構成になっている。
しかし、これは黒田日銀の十八番である詭弁でしかない。
黒田日銀が異次元の金融緩和を導入してから約半年後の2013年9月に日銀政策委員会委員だった白井さゆり氏がワシントンで行った「我が国の金融政策とフォワードガイダンス」という講演のなかで、日銀はフォワードガイダンスを導入していることを公式に認めている。
「日本銀行は早くも1999年に、他国に先駆けて(ゼロ金利政策導入に伴う)ゼロ金利制約に直面し、その下で金融緩和政策の一環としてフォワードガイダンスを導入しており…」
「日本銀行が現在実践している一連のコミュニケーション政策(注:フォワードガイダンスという言葉は使用していませんが、同様の趣旨)について概観し、過去の枠組みや他国との違いについて触れたい」
このように、「今回初めてフォワードガイダンスを導入した」という日銀の主張は事実ではない。