米朝の歴史的な会談は、核全廃への道を切り開くなど大きな成果をあげて終了しました。その中で単純に喜べないのが日本です。米朝が得た利益とともに解説します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年6月13日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
米国と北朝鮮がともに手にした「大きな魚」。対して安倍政権は…
予想以上の会談成果
米朝の歴史的な会談が、「誰もが予想していた以上に素晴らしい会談だった」(トランプ大統領)と言わしめる成果の下に終了しました。そして想定外の「共同声明」がまとめられ、両者がこれにサインしました。
具体的なタイムスケジュールなどは今後の会合で詰めるとして、今回は北に時間的に譲歩し、大枠の包括的な合意に至ったことは、第一歩としては大きな成果と言えます。
トランプ大統領は事前に「1分でわかる」と述べていましたが、金正恩委員長の印象として「頭のいい、価値ある交渉相手で、北朝鮮を心から愛する人間」と評しています。信頼できる交渉相手と理解し、そのうえで「これまで誰も成し遂げられなかった大きな成果をあげることができた」と述べています。
一方、北朝鮮の金委員長は、拡大会談の冒頭で「大統領とともに、巨大な事業を始める決心がついている」「今回、2人が会談することで、新たな平和がもたらされる」と言っています。会談前の硬い、緊張した表情は、今回の会談に対して、並々ならぬ決意を持って臨んだ状況を物語っていたようです。
幸運にも「機が熟した」
両首脳は、ちょうど双方に会談を促す好機にあり、機が熟していたという点がラッキーでした。
オバマ大統領の時期には、北朝鮮でまだ核開発が進まず、米国との交渉力を保持していなかったので、「対等な形」での米朝会談は難しい状況にありました。北はここへきてようやく核ミサイルを完成し、対米交渉権を得たことになります。
金委員長にしてみれば、核ミサイル開発に資源を投下したために、国民経済に大きな犠牲を強いてきました。この先は核開発ではなく、経済発展に資源を回して国民生活の向上を図らないと、国民の不満を抑えきれなくなります。
一方のトランプ大統領も国内情勢が厳しく、秋の中間選挙前に、なんらかの得点をあげておきたい状況にあり、米国主導の会談になれば、得点も大きくなる算段でした。
ウィン・ウィンの成果を期待
しかも、今回の会談では、どちらかが得をすればどちらかが損をする「綱引き型」ではなく、両者にメリットが期待できる「ウィン・ウィン」の形が期待できる状況でした。
それだけに、互いに会談で大きな成果を上げるインセンティブがありました。大きな魚を逃す手はありません。