1997年にアジア通貨危機を引き起こしたジョージ・ソロスが、最近、気になる発言をした。米金利の上昇を背景に、「ドル相場の急伸と新興市場からの資本逃避は、次の大規模な金融危機をもたらす可能性がある」というのだ。だが、ソロスの警告通りに大暴落が起きるとしても、個人投資家は何も恐れる必要はない。どういうことか?(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』鈴木傾城)
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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。
ソロスの予言を逆手に取り、アジア新興国株を豚のごとく貪れ
新興国危機へのカウントダウン
「経済的な大混乱が再び来るのか?」「新興国は危ないことになるのではないか?」という不安と恐怖が徐々に金融市場に渦巻くようになっている。
何が起きているのか。
世界の新興国が徐々に変調を隠せなくなっているのだ。そのきっかけになっているのは、ドルと米国金利の上昇だ。
新興国というのは元々は不安定でリスキーな市場だ。しかし、リスキーだからこそ、そのボラティリティや成長を当てにした投資や投機が可能になる。
ただ、資本主義の総本山であるアメリカ市場で安全に金が増やせるのであれば、何も新興国でリスクを取る必要がない。そうなると、新興国の投機マネーはアメリカに戻る。
米国金利の上昇は「リスクを取らずに利息が取れる」のだから、世界経済は常に米国金利上昇で潮目が変わる。今回もまたその動きが起きているのだ。すなわち、新興国からドルが抜けている。
その結果、アルゼンチンの通貨ペソが史上最安値を更新、トルコ・リラ、メキシコ・ペソ、ブラジル・レアル、インド・ルピーから一斉に資金流出が起きるという状況になっている。
ジョージ・ソロス「次の大規模な金融危機は近い」
新興国が一斉におかしなことになっている。この状況を見て、ジョージ・ソロスは2018年5月29日のパリ講演でこのように語るようになっている。
『ドル相場の急伸と新興市場からの資本逃避は、次の大規模な金融危機をもたらす可能性がある』
ソロスが「新興市場の資本逃避」を話すときは、十分に気をつけなければならない。
なぜなら、新興市場からの資本逃避が巨大な金融危機を起こした例として1997年のアジア通貨危機があるのだが、このときに新興国の通貨が崩れると見て激しい売り浴びせをした張本人こそがまさにジョージ・ソロスだったからである。
1980年代、タイは工業化の道をひた走って高度成長期に入ったのだが、それが途切れたのが1995年だった。
1995年には何があったのか。アメリカはこの頃から「強いドル政策」を採用してドル高誘導するようになっていたのだ。つまり、アメリカは金利を引き上げた。
この当時、タイは自国通貨バーツをドルにペッグ(固定相場制)していたので、ドルが上昇するとバーツも一緒に上昇するという仕組みになっていた。
バーツが上昇すると輸出が振るわなくなる。そうなると高度経済成長は終わる。そのため、バーツは切り下げられるという目論見が生まれる。
これに目をつけたのがソロスを始めとしたヘッジファンドである。彼らは巨額の資金でバーツを売り浴びせていき、この通貨の空売りによってアジア通貨危機は発生した。
アジア通貨危機は、タイのバーツ危機から始まったのだ。
タイ政府はバーツを買い支えることができず、タイ経済はこれによって壊滅的な打撃を受けて、タイ株式市場どころかタイ国家そのものが崩壊の危機に瀕した。
ジョージ・ソロスは、アメリカが金利を上昇させている今、「再びこのような危機が新興国に起きるのではないか」と言っている。