「賃金据え置き」を決断する企業の事情
1970年代までは物価上昇が大きかったこともあり、春闘賃上げは「物価後追い方式」といって、前年の消費者物価上昇率を基準に決められることが主流でした。
ところが、昨今は物価が一時的に上昇しても、春闘でこれをカバーしようという発想はほぼなくなりました。物価がそれだけ安定していることもありますが、主流は企業のコスト削減意識です。
企業は賃上げを抑えるだけでなく、固定費を減らし、社会保険料負担を減らすために、非正規雇用へのシフトを進めました。
利益が増えた分は一部をボーナスなど一時金で対応し、固定費としての人件費は極力圧縮してきました。
特に安倍政権になってからの5年間では、企業が支払った人件費はほとんど増えていません(※財務省「法人企業統計」より)。
国民が節約するのは当たり前
個人の所得が増えなければ、物価が上がればその分の消費を減らさざるを得ません。そして需要が減れば、今度は企業が値上げをしにくくなります。
トラック運転手の不足で運送業者が配送料の値上げをし、その余波でネット通販、ワイン、コーヒーの配送料が上がり、業務用ビールなども輸送コスト高から値上げとなりました。
これらに購買力を奪われて需要が減る消費関連業界では、スーパー・コンビニなどが値下げをして顧客確保に努めています。
結局、家計の所得が持続的に増えないと、物価の持続的な上昇も困難となります。
日銀が掲げた「安定的に2%以上の物価上昇」という目標は、今の日本の企業対応を考えると、何年たっても実現しないことになります。