日銀がインフレ目標達成時期を削除しましたが、これは事実上のギブアップです。しかしなぜ、一旦は上昇しかけていた物価が途中で頓挫してしまったのでしょうか。1-3月期のGDPが9期ぶりのマイナス成長となるなど、日本はますます貧乏になっています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年5月16日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
安倍政権になってから5年、企業の人件費はほとんど増えていない
どうしても追加緩和はできない日銀
日銀は先の金融政策決定会合で、これまで2019年度中としていた物価目標の達成時期を、あえて明示しないことにしました。
これには、日銀内で2019年度中の2%目標達成は困難との見方が強まったこと、7回目の目標達成時期先送りとなれば、日銀の政策に対する信頼を傷つけるほか、市場が追加緩和の期待を持ちかねないことを恐れたためと見られます。
前回決定会合での「主な意見」によると、メンバーの中にはこれを外すことに反発も見られ、市場に日銀の姿勢後退ととられないためにも、できるだけ早期に達成するとの姿勢を明確にするよう、求める声も出ていました。同時に、物価目標にほど遠い状態を放置せず、追加策を講じるべきとの意見も見られました。
しかし、日銀執行部には、これ以上の金利引き下げや、国債・リスク資産の買い入れ増額には抵抗が大きいのも事実です。
黒田総裁は表向き何の問題も生じていない、と言っていますが、市場から国債市場の歪みを指摘され、ETFやJ-REITの買い入れ減額を求める声が出ていることも認識しています。
それだけに、よほどのことがないと日銀は追加緩和には出られません。
期待を絶った物価統計
黒田総裁は3月の時点で、物価目標の2019年度達成を確信し、「その頃には出口策を検討しているはず」と述べていました。
この時点では、物価目標達成にはかなり自信のほどが伺えました。実際、消費者物価統計では、2月の「帰属家賃を除く総合」が1.8%の上昇と、2%一歩手前まで高まり、「コアコア」も直近半年では年率1%強まで上昇ペースを高めていました。
ところが、3月・4月(東京都区部)の物価統計が、この日銀の期待を打ち砕く結果となりました。実勢としての上昇率を見るために用いられる「季節調整後」の前月比が、3月・4月と続けてマイナスになったのです。
このため、一時半年前比年率で1%に達した「コアコア」は、3月までの半年では年率0.6%に、4月までの半年では年率0.2%に、直近3か月では年率マイナス0.8%に低下しました。
こうした状況を見る限り、2019年度中に2%に高まることは実際不可能となりました。
コアコアがゼロでも、原油価格が高騰してガソリン・電気・ガスが大幅値上げとなって、2%のインフレが実現する可能性は100%否定できません。しかし、原油高騰に起因する物価高では、持続的な上昇は期待できません。そもそも原油価格が無限に上昇を続けることは考えにくいものです。