米利上げ戦略の踏襲か加速かが注目されていたFOMC。市場の評価は分かれていますが、声明文を丹念に見ると予想以上にタカ派で、年内4回の利上げもありえる状況です。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は、『マンさんの経済あらかると』2018年3月23日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
予想外にタカ派のパウエルFED。トランプ大統領との関係性は?
評価は分かれるが、丹念に見ると…
パウエル議長にとっては、2月にFRB議長に就任して最初のFOMC(連邦公開市場委員会)となりました。
それだけに、彼が指名者トランプ大統領の意に沿うよう、ハト派的な色合いを出すのか、最近のG30(主要国中央銀行の元関係者や有識者などで構成されるグループ・オブ・サーティー)の意向などを反映してタカ派的に動くのかが注目されていましたが、トランプ氏の意向に反してタカ派的な姿勢を見せています。
もっとも、声明文・議長の会見ともに、市場参加者の評価が分かれ、為替市場は今年の利上げ回数が4回にならなかったことを失望して大幅なドル安となりましたが、長期金利は乱高下しました。景気判断が強気化したことを受けて、10年国債利回りは一時2.936%まで上昇、2年国債も2.366%をつけましたが、最後にはそれぞれ2.894%、2.308%に低下しています。
見通しでは各年のGDP予想が0.2%から0.3%に上方修正され、失業率も2020年末では前回の4.0%から3.6%に大きく引き下げられ、このためインフレ見通しもコアPCE上昇率で今年が1.8%から1.9%に、来年は2.0%から2.1%に上方修正されました。ここまでは明らかに景気判断の強気化で、金利上昇要因ととられました。
しかし、議長は会見で貿易戦争の影響を産業界が懸念していると述べ、それは見通しに反映されていないと言ったため、強気論が冷やされ、長期金利が最後には低下しました。しかし、金利見通しを集計した「ドット・チャート」や、声明文を丹念に見ると、パウエルFEDは予想外にタカ派的であることが分かります。
意図的な「金融引き締め」を目指している
まず為替市場が失望した「ドット・チャート」は、よく見るとかなりタカ派で、それどころか、FRBの基本姿勢が「金融緩和策の正常化」を超えて、「意図的な引き締め」を展望していることを明示しています。本来なら市場は金利上昇、ドル高で反応してもおかしくない姿です。具体的に見ましょう。
18年末の予想金利水準は予想の中央値で2.125%と、前回と変わらず、この後2回の利上げしか予想していないように見えますが、この「中央値」が曲者です。現在、12の地区連銀総裁と3人の理事(議長、副議長を含む)の合計15人が予想するため、上下からみて8人目の予想が中央値となります。前回も今回も8人目が2.125%ではあるのですが、今回は2.375%以上を予想する人が7人となりました。
つまり、今年4回以上の利上げを予想する人が7人と、前回の4人から3人増えています。従って中央値でなく「平均値」をとれば、今回は予想金利が上昇していることになります。また19年については、前回の中央値2.688%から2.875%に上昇、つまり19年中の利上げ回数は前回の2回半から3回に増えました。問題はここからです。
2020年と長期的中立水準とされる金利水準も引き上げられたのですが、長期的な中立水準が2.875%とされるのに対し、2020年の予想金利は3.375%と、中立水準よりも0.5%高い予想となっています。FRBはこれまで「緩やかな利上げのもとでも、中立水準より低い緩和的な状況が続く」としていましたが、2019年末には中立水準に達し、2020年の利上げは引き締めとなります。
つまり、この「ドット・チャート」が示しているのは、金融緩和策の「正常化」を超えた「引き締め」の意図が反映されている、ということです。