積極的な企業訪問で投資対象を見極める証券アナリスト「炎のファンドマネージャー」氏が、注目の上場企業を深掘りインタビューする「炎のIR」。第2回目の今回は、株式会社クロスフォー(証券コード:7810)の土橋秀位代表取締役社長にお話を伺った。2010年に開発した宝石のセッティング方法「Dancing Stone (ダンシングストーン)」の成功を原動力にJASDAQ上場を果たした同社は、「売上高の約3割が海外」という国内ジュエリー業界では異色の存在。なぜ「Dancing Stone」は、世界の女性の心をつかむことができたのか、秘密に迫る。
聞き手:炎のファンドマネージャー
現役証券アナリスト、ファンドマネージャーにして、無料メルマガ『億の近道』のメイン執筆者の1人。大学入学資金を株式の利益で確保し、ゼミでは証券論を選択。卒業後、証券会社では一貫して調査畑を歩みアナリストとして活動してきた。その後、独立系投資運用会社でファンドマネージャー経験を積む。企業訪問や企業プレゼンを積極的に行い、生の情報から企業分析を行っている。
ゆれる宝石「Dancing Stone」で世界市場をねらうクロスフォー
土橋秀位社長が語る「ゆれるデザイン」への大反響
炎のファンドマネージャー(以下:炎):宝石をゆれ動くように設置することで、鼓動や呼吸と連動して宝石が光り輝く「Dancing Stone (ダンシングストーン)」が、大変な人気ですね。私も、結婚記念日に妻へのプレゼントに購入しました。「すごいキラキラ光るね」とよろこんでもらえましたよ。
土橋秀位社長(以下:土橋):そうでしたか。ありがとうございます。「Dancing Stone」はちょっとした動きでもゆらめいて光り輝きますからね。他にも石が大きく見えたり、輝度が高まるといったメリットもあります。
炎:「Dancing Stone」は、御社にとってエポックメイキングだと思いますが、ジュエリー業界においてもイノベーションだと私はとらえています。2010年11月の開発以降、現在までの反響はいかがでしょうか?
土橋:売上高は2015年以降急成長しています。また、いろいろな場所でお話をさせていただいたり、商品を展示させていただく機会が増えました。おもしろいのは、日本国内よりも海外の方が「Dancing Stone」の知名度があるところですね。先日もイギリスのある老舗自動車メーカーさんのユーザー向けのイベントから「Dancing Stone」を展示してほしいというオファーをいただきました。また、ベルギーのダイヤモンドの取引所からも「ぜひ来てくれ」といわれています。
炎:そういう世界からの引き合いは、「Dancing Stone」への注目の証左だといえますね。
土橋:本当にありがたいことですね。日本だけを見ていると、人口がどんどん減っていく先細りの市場環境だといえますが、世界は70億人以上の人口があり、2050年には98億人になるともいわれています。その市場で注目されているのは、大きなチャンスだと思っています。
特許を強みに国内はOEM、海外はライセンス事業で急成長
炎:「Dancing Stone」についてもっと掘り下げていきます。そもそもアイデアはどういうところからきているのでしょうか?
土橋:宝石は止まっているよりも、常に振動していた方がキラキラ光るという考えが発想の原点です。そして「世界で一番輝くジュエリー、ダイヤモンドを表現したい」という思いが根底にあります。
炎:まさに「コロンブスの卵」のような発想ですね。
土橋:アイデアとしてはシンプルですが、製品化までには本当にたくさんの苦労を乗り越えてきたので、確かにそうかもしれません。
炎:特許技術なのでしょうか?
土橋:おっしゃる通りです。2010年11月に開発、2011年5月に発売に至りましたが、国内の特許は2013年に取得しています。また、海外での展開を考えていたので、やはり2013年に中国でも実用新案登録を行っています。その辺りからですね、本格的に海外進出に踏み出したのは。
炎:ちなみに日本市場では、OEMと自社ブランドで完成品の製造・販売を行い、世界市場ではライセンスを軸としたパーツ販売という形でビジネスモデルを分けられているのはなぜでしょう?
土橋:パーツ販売に絞ることで低コストで海外展開が可能だからです。前提として、貴金属の海外への持ち出しには、厳しい制約があり、高い関税がかかります。しかし、パーツ販売なら完成品と比べて、製造コストも関税も低く抑えられるのです。
炎:なるほど。そこに「Dancing Stone」の独自性も加わり、世界で注目されてきたわけですね。
土橋:現在、当社の売上高を見ると海外事業は約3割にまで増加しており、この数字は順調に世界での足場を築けている証拠だと考えています。今後はグループ会社がある中国・香港を拠点にアジアからもっとその割合を増やしていきたいですね。
「模倣されるのは売れる商品の証し」ユニークなコピー品対策
炎:ちなみに「Dancing Stone」という革新的なアイデアの場合、特に海外ではコピー品などへの危惧もあるかと思います。御社では、どのような対策をとられているのでしょうか?
土橋:大前提として、日本、中国、アメリなど世界8か国及び欧州で特許・意匠権を取得しています。さらに10か国以上で特許を申請中です。
炎:万全の体制をとられているワケですね。しかし、それでもコピー品は出てきますよね?
土橋:これに関して、私の考え方としては「売れないものはコピーされない」というものがあり、コピーされるのは「売れる商品である」という証しです。また、コピー品を買う人たちは、本物がないからニセモノを買っているケースもあります。そういう人たちは、最後には「本物」が欲しくなり、コピー品は選ばなくなるんです。ですから、長期的に見れば、イレギュラーな「宣伝」だと考えることもできます。実際、今から15年くらい前の中国では、たくさんの有名ブランドのコピー品が出回っていましたが、各ブランドが中国に上陸していく過程で、多くの人が「本物」に乗り換えていきました。ニセモノでも、多くの人が持っていれば名前や特徴は浸透し、いざ本物が来た時には「ずっと憧れていた本物だ!」となるわけです。
炎:引き算ではなく、足し算の発想をされているわけですね。「コピー品はマイナスだけじゃない」と。
土橋:だからといって、うちは知らんぷりを決め込んでいるワケではありません。きちんと弁護士を立て、法的措置を行うことで、コピー品業者に向けて戦う姿勢は示しています。ただ、3社を訴訟したら、その隙を突いて新たなコピー品業者が30社出てくるといった面もあるので、どこまでやるかは難しい部分もあります。そこで、コピー品業者に対して、正規価格での取引機会や、正規ルートでの販売機会を提供することで、正規の取引先に転換させるといった取り組みも行っています。「罪を憎んで人を憎まず」ではないですが、コピーリスクを低減できて、販路の拡大もできるという、一挙両得な取り組みです。
<クロスフォーが展開する3ブランド>
テレビCMの効果で若い女性への認知を実感
炎:なるほど。それが世界で勝負していくということなのですね。宣伝という面では、御社は日本国内でテレビCMをはじめられました。ブランディングや知名度向上といった狙いがあるかと思いますが、反響はいかがでしょうか?
土橋:反響はものすごかったです。当社の営業活動だけでは手が届かなかった部分に対して、確実に届いているという手ごたえを感じています。出かけるときは、スーツに「Dancing Stone」のブローチを付けていますが、特に若い女性たちから「あっ、それテレビで見た!」と言ってもらえることは増えましたね。
炎:そうした印象が残っているのは、素晴らしいですね。
土橋:ありがたいことです。こうした取り組みを1年、2年、3年、5年、10年と継続的に続けていけば、皆さんの心の中に浸透していきますからね。その結果、お祝いごととか、誰かにプレゼントしたいと思った時に「Dancing Stone」を思い出してもらえるわけです。そんなブランディングを目指しています。
炎:テレビCMは、5年、10年先を見すえているわけですね。もう1つ、御社の最大のトピックといえば、やはり昨年7月のJASDAQへの上場ですね。非常に大きなインパクトがあったと思います。
土橋:ジュエリー業界において、「信用」はとりわけ重要なものです。日本においても、海外においても、当社が上場企業であることは、その信用の大きな土台になると思っています。新たな取引先とお仕事をする場合にもプラスに働きますし、これまで以上に大きな挑戦ができるでしょう。
「世界国日本県」世界標準に対応する体制作り
炎:これまでのお話で、土橋社長の視線の先には常に「世界」があることを感じていますが、日本市場と世界市場の違いはどういうところにあるのでしょうか?
土橋:「Dancing Stone」を世に出し、世界からたくさんの引き合いを受ける中で感じたのは、オーダー数の違いだと思います。文字通り、ケタ違いです。日本なら月に約2万個のオーダーでもかなり大きな数字ですが、世界の市場では、10万個、場合によって100万個というオーダーもあり得ます。それに対応できる生産体制にしていかないと、世界の市場では相手にしてもらえません。そうした学びも得たので、機械化による生産性向上やコストカットできる製法の開発も進めています。
炎:そうしたスケール感であれば、コストダウンの効果も日本市場だけの時よりも、さらに効いてきますね。世界市場での展開が軌道に乗ってくると、御社もより大きな成長を果たせるわけですね。
土橋:そうですね。私の中では「世界国日本県」という認識になっています。縮小市場である国内から、成長市場の世界に飛び出さないことには未来はないですからね。実際、当社が新たに開発した製法は、製品に使う地金は半分でも、強度と見た目が変わらないという特徴があるので、コストカット的な側面と独自性を両立しており、「Dancing Stone」を次のステージに押し上げる原動力になると思っています。
「Dancing Stone」を軸に新たなアイデアで世界をとる
炎:本当にアイデアマンの土橋社長ですが、他にも世界市場に向けたアイデアをお持ちなのでは?
土橋:確かにあります。先ほど、機械化と地金を半分にした製法について少し触れましたが、この技術を活かした新製品の展開も考えています。
炎:具体的にはどんな製品でしょうか?
土橋:プチペンダントやピアスなど、0.1カラットのダイヤを使った商品がそうです。宝飾品業界では、0.1カラットのダイヤを使った商品は、若い女性に人気で、機械生産することでコストダウンさせ、価格面での勝負が可能です。さらに「Dancing Stone」という特別な個性が加わることで、差別化も図れます。つまり、当社にとって「世界をとるための製品」といっても過言ではありません。
炎:より大きな市場であり、最激戦区への進出で、真っ向勝負されていくわけですね。
土橋:それだけではありません。「Donut Parts」という新製品も用意しており、「Dancing Stone」をパーツ化することで、メガネやバッグに取り付けられるというものになります。宝石がゆれながらキラキラ光る「Dancing Stone」がメガネに付いていれば、かなり目立つと思います。
炎:新しい市場で、新たなニーズを生み出す製品というわけですね。頼もしいお言葉です。最後に投資家の皆様に向けたメッセージをお願いします。
土橋:「世界をとる」と大きなことをいいましたが、もちろんいきなりは難しいことは分かっています。ただ、一歩、一歩、昇っていくように信用を積み重ねていくことが、5年、10年先の「結果」に繋がると考えています。ですので、株主、投資家の皆様には、長い目で見ていただくことになりますが、代わりに株価を何十倍にできるよう、努力を続けていきたいと考えています。
Source:株式会社クロスフォー