国民が震災やテロなどでショックを受けている隙を狙い、一気に構造改革を進めてしまう「ショック・ドクトリン」は有名です。とはいえ、そこまで大きな「ショック」は頻繁にあるものではありません。それでは、日常的にはいかにして、「構造改革」が行われるのでしょうか?(三橋貴明)
記事提供:『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2017年3月13日号より
※本記事のタイトル・リード・本文見出し・太字はMONEY VOICE編集部によるものです
「既得権益」を闇雲に批判する、“竹中流”構造改革に注意せよ
東日本大震災で使われた「ショック・ドクトリン」とは?
新自由主義的な政策を推進する手法として、ショック・ドクトリンは有名です。震災やテロなどの「ショック」があった際に、国民が衝撃を受けている隙を狙い、一気に構造改革を進めてしまうのです。
ちなみに、東日本大震災においてもショック・ドクトリンの手法は用いられ、仙台空港の民営化や、漁業分野(水産業復興特区)へ大手企業が新規参入。原発事故を利用したFIT(再生可能エネルギー固定化価格買取制度)導入など、いくつもの「成果」を挙げています。
とはいえ、ショック・ドクトリンを実行に移せるほどの「ショック」は、それほど頻繁にあるものではありません。それでは、日常的にはいかにして、「特定の誰かを富ませる構造改革」が行われるのでしょうか。
平時に威力を発揮する「ルサンチマン・プロパガンダ」
国民のルサンチマンにかこつけ、特定の誰か(農協、医師会、土木・建設業者、公務員、電力会社などなど)を「既得権益」という悪者に設定。「既得権益が!」と批判することで、ルサンチマンにまみれた国民の支持を取り付け、構造改革を推進するのです。
すなわち、ルサンチマン・プロパガンダです。
農協で言えば、「農協は既得権益だ!解体しろ!」と、叫び、国民の支持を取り付け、農協グループを全農、農林中金、JA共済、単協と切り分け、それぞれを「パクっ!」と食べてしまう。
もちろん、農協にも何らかの組織的問題があるでしょう。いかなる組織であっても、問題は抱えています。ならば、「農家の所得を増やし、国民の食料安全保障を維持するために、農協をどのように改革するべきか?」という議論が行われなければならないのですが、現実には「農協は既得権益だ!解体しろ!」「そうだ!そうだ!」と、まるで魔女狩りのような光景が繰り広げられ、日本国の食料安全保障が崩壊に向かっています。
公務員問題でいえば、「公務員の給与は高すぎる!給与引き下げろ!」と、国民のルサンチマンに火をつけ、同意を取り付けたのち、「いや、いっそ公務員を民間委託にしよう。そちらの方が効率的だ!」と、本来の目的が顔を出し、行政という分野に「新規参入」を果たした企業(及び経営者や投資家)が儲けるという構図でございます。
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