あれからちょうど12年、2006年1月16日に起きた、あの「ライブドア事件」。当時すでに有名人だった元社長の堀江貴文氏をはじめ、経営陣が次々と逮捕されるという前代未聞の事件でしたが、その後、同社に残って会社を守った経営陣のことについてあまり多く報じられていません。騒動後からライブドアの再建に向けて尽力した一人である高岳史典さんは、自身のメルマガ『銀行とP&Gとライブドアとラムチョップ』の中で、事件当時の知られざる真実をすべて実名入りで数回に分けて赤裸々に綴っています。
今だから明かす、日本中が知らない「ライブドア事件」の裏側
ライブドア~あの事件のあとのホントの話(前編)
先日、出澤剛さん(現LINE CEO)と久しぶりに飲んでいるときのこと。
「このあいだ電通さんの社長さんが交代されたとき、わざわざご挨拶に来てくださったんですよ。なんだか不思議な感じがして」
出澤さんが感じた「不思議」が何を指すのかはすぐわかりました。
「10年前は呼びつけられて怒られましたもんねぇ」
いまは二人にとって共通の笑い話の1つ。
でも、10年前、2007年の僕らは、あらゆるところで怒られ、叩かれ、それでも生き延びるのに必死でした。
2006年1月16日、六本木ヒルズのライブドア社にいきなり東京地検の強制捜査が入ります。
世に言うライブドア事件の始まりであり、社長の堀江貴文さんをはじめ当時の経営陣がことごとく逮捕されるという前代未聞の事件に発展します。
切り売り査定のためライブドアへ
その頃の僕は、アリックスパートナーズという事業再生コンサルティング会社で駆け出しのコンサルタントとして文字通り東奔西走の毎日を送っていました。そしてまさか、自分がライブドアに入ることになるとは夢にも思っていませんでした。
2006年10月、大手航空会社の再建事案に取り組んでいる時にいきなり「明日から六本木ヒルズへ行ってくれ」という指示が来ます。
「まさかライブドアですか?でも僕が行って何を…」
アリックスがライブドアの金融部門の査定に関わっているのは知っていました。事件で大幅に下落したライブドア株を買い占めたいわゆるハゲ鷹ファンドは、ライブドアを解体して資産を切り売りしようとしていました。アリックスはそのファンドに雇われて、資産査定をしていたわけです。
そしていよいよ本丸とも言えるポータルサイト「livedoor」に手をつけることになり、多少なりともメディアの知見があった僕が呼ばれることになったわけです。
ただ、正直気は進みませんでした。だって企業の「再生」をお手伝いするためにアリックスに入ったのに、切り売りのための査定だなんて…。
とは言え、仕事は仕事。
「中は荒れてるんだろうなぁ」
そんなことを考えながら六本木ヒルズの38階に降り立ったことを鮮明に覚えています。
しかし、ここから予想外のことが起こります。
いや、もっというと、このあと5年間、僕は全く予想外の、ホリエモン的に言えば「想定外」の日々を送ることになるのですが。。
ライブドアの受付で出迎えてくれたのは中野正機さん(現ダーウィンホールディングス社長)と安岡祥二さん(現LINE執行役員)のお二人。何に驚いたかってまず二人が若いこと!
当時お二人とも若干20代であり、てっきりこのあとベテランの経営企画の方が現状説明にいらっしゃるのだろうと思っていました。
ところが部屋に入るとそのまま二人が説明を始めて。
またその説明ぶりがあまりにも聡明で、綺麗に整理された資料とともに、なんというか、度肝を抜かれます。
実際、アリックスに入って以来、いわゆる大手企業のコンサルには幾つも入っていたのですが、最初のブリーフィングからこんなに的確な説明を聞いたのは初めてでした。
そして最後にまた驚かされることになります。
説明を終えた二人は一礼してこう言ったのです。
「アリックスさんが来てくれて本当に嬉しいです。ライブドアをよろしくお願いします」
(いや、あの、切り売りのための査定に来たのだけど…)
喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、部屋をあとにしました。
それが僕とライブドアの出会いです。
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