トランプ大統領が初めての施政方針演説で「インフラ投資を1兆ドルやる」と言いましたが、アメリカのGDPから見たらこれは相当小さいものです。その程度かという印象です。(『グローバルマネー・ジャーナル』大前研一)
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※3月5日撮影のコンテンツを一部抜粋してご紹介しております。
プロフィール:大前研一(おおまえ けんいち)
ビジネス・ブレークスルー大学学長。マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。スタンフォード大学院ビジネススクール客員教授(1997~98)。UCLA総長教授(1997~)。現在、ボンド大学客員教授、(株)ビジネス・ブレークスルー代表取締役。
「その程度なのか」大きく見えて実は小粒なトランプの目玉政策
「インフラ投資1兆ドル」では全く足りない
アメリカのトランプ大統領は先月28日、アメリカ議会上下両院合同本会議で初めての施政方針演説を行いました。その中でトランプ大統領は、アメリカ経済の再起動を訴え、30年ぶりの税制改革と、1兆ドル(約113兆円)のインフラ投資を表明。相手を一方的に非難するいつもの姿勢は抑え、原稿をほぼ読み上げ、政策実現へ向けた議会の融和を呼びかけました。
一般に好評だったとトランプ大統領自身も言っていますが、私はそうではないと思いました。演説を読むと、つまらない人間になると感じました。つまり、彼はあのように作文されたものを読むと、実はきちんと読めるのです。いつもは演説がとても下手で、わけのわからないことを、思いついた順に言い、始めた文章を最後まで終わるということは滅多にありませんが、今回の彼の演説を聞いていると、特徴がどこにもなくなったと感じます。
イギリスのBBCは、同じアルバムの最初の曲を変えただけで、中身は全部同じだったのではないかという言い方をしていました。私も、やはりこの人は当たり前の人間になると非常にパワーが弱まると思いました。何のためにこの人は大統領になったのかという部分、私はそこには反対ですが、その部分がどこかに吹っ飛んでしまうのだと思いました。
また、「インフラ投資を1兆ドルやる」ということを言いましたが、実はそこには「10年間」という言葉が入っているのです。ということは1年で10兆円です。アメリカのGDPから見たら、日本のヘリコプターマネーと比較すると相当小さいものです。
アメリカのインフラの傷み方は半端ではないので、その程度なのかという印象です。数字だけを聞いていると大きな投資との印象を受けた人もいると思いますが、私に言わせると、10年で割ってみれば大したことはなく、日本のレベルよりも低いくらいなのです。その一方、軍事に関しては大きな増額になります。
まるで塩のきいていないスープ
今回の演説のポイントを挙げると、TPPの離脱など、今まで言ってきたことばかりです。それ以外は人畜無害な、NATOを支持することなど、選挙期間中と違うことを言っている状況です。選挙期間中と同様のことを言っていたのは、メキシコとの間に壁を作ることや、オバマケアの撤廃などです。
オバマケアについては、その後オバマケアの問題点がたくさん出てきているのは確かです。保険料が非常に高くなった層が結構多いのです。しかし、オバマケアを撤廃するというよりも、問題を修正することによって良くなると思うので、オバマを否定してオバマケアは全てアウトだとする必要もないと思います。
今回は、当たり前のトランプ大統領はこんなに特徴がないのかということでしたが、どちらかというと、金持ち優遇という部分は如実に出てきています。法人税や所得税を下げることなどです。ただ、総じて私は塩のきいてないスープのような感じになってしまった気がしました。
ウォール街にとってはプラスの評価
一方、これによって喜んだのがウォール街です。何しろドッド・フランク法という、リーマンショックの後に導入された規制を撤廃することになるからです。またエネルギーについては、CO2などくそくらえという姿勢です。化石燃料やエネルギー産業にとってもプラスで、特にアメリカはそういう産業が多いので、大きなプラスになります。
さらに、刑務所運営会社について、オバマ政権で外部委託を廃止していましたが、再び外部委託を許可し、不法移民を連邦収容センターに収容するとしています。一方、小売業は輸入関税を20%かけることになると、やっていられなくなると思います。おそらくこれは途中で止めることになるでしょう。
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